2020年東京五輪で活躍が期待される選手を紹介する連載「2020の肖像」。第15回は、テニス男子・錦織圭。2020年東京五輪を30歳で迎える。いわゆる三十路。日本男子テニスの歴史を次々と塗り替え、16年リオデジャネイロ五輪では日本勢96年ぶりのメダルを手にした男は、自国開催の祭典を円熟期で迎える。朝日新聞編集委員・稲垣康介が、30歳で東京五輪を迎える錦織の心情に迫る。
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錦織は19年秋、珍しく大好きな日本に長くいた。
長期滞在の理由はシーズン途中で離脱し、10月に踏み切った右ひじの手術だ。その後のリハビリを国内で地道にこなした。
11月30日、東京・明治記念館で催された日本テニス協会の年間表彰パーティーのとき、報道陣に囲まれて近況を語った。
「ゆっくりラケットを振れるようになった。復帰は1月ごろになると思いますけど、順調です」
本人が違和感を感じたのは、5月下旬からの全仏オープンのころだという。
8月の全米オープンは、もう限界に近かったのだろう。3回戦で20歳の世界ランキング38位、アレックス・デミノー(オーストラリア)に敗れた。
前哨戦で不振でも、4大大会には照準を合わせるのが錦織、のはずだった。18年のウィンブルドン以降、4大大会は5回連続で8強に残っていた。負けたのはノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ロジャー・フェデラー(スイス)の大御所3人。それ以外の選手には23連勝中だった。
デミノーは若手の有望株とはいえ、ふだんの錦織なら耐え抜く勝負どころで踏ん張れない。本来の「遊び心」が消え、自らのミスを責める場面が増えていった。消化不良のこの敗戦が、19年の錦織のラストゲームとなった。
──右ひじの違和感が原因で、プレーを楽しめなかった面はあるのか?
11月の表彰パーティーで記者から質問が飛んだ。
「(けがのことが)頭のどこかにあるので、いらつきは早かったですね。今から考えると、なんか集中できないというか。腕とも戦わないといけないので」