「『葬儀はやらなくていい』と言う方が実は多いのですが、残された人にとって『やらなくていいよ、任せるよ』が一番困るんです。今は、100人いたら100通りの葬儀ができる時代。やらぬわけにはいかない、となる。遺族にとっては、故人の要望があればあるほどかなえやすいものです。過去に、祭壇に飾る果物の盛り合わせの代わりに、ご遺族の意向で故人の好きだった日本酒の『賀茂鶴』を飾ったことがあります。『故人に喜んでもらえる葬儀ができたと思う』と話していました。好きなものをノートに書くなりして家族に伝えておくというのはささいなことですが、送る側にとっては、のちに大きな満足につながるんです」

 葬儀だけではない。病気や要介護状態になったとき、不動産や車、趣味のコレクションをどうしてほしいか等々を記しておけば家族も困らない。預金や現金以外の所得の情報など、本人しかわからないものがあれば、メモにしておかないと引き継ぐ側が大変なことになる。

「もしも」のときに、このエンディングノートを見れば解決できるようなマニュアルを作る気持ちで、大事な自分の情報をひとつにまとめておこう。

 エンディングノートは文房具の大手「コクヨ」から出ている「LIVING&ENDING NOTEBOOK もしもの時に役立つノート」のようなオーソドックスなものもあれば、市川さんの著書『「現代(いま)葬」がわかる本』に付録(「いちばんやさしいエンディング・ノート」)でついているようなものもある。自分が書きやすそう、と感じるものを選んで項目を埋め始めてみよう。

 とはいえ、意外と筆が進まないもの。市川さんによれば、エンディングノートを書けない人に共通する理由は以下3点だそう。

「一つ目『気軽に書き直すという感覚がない』、二つ目『すべてに記入しなければならないと思っている』、そして最後が『内容が自分に合わないと感じる』です。既製品なのですから自分の思いどおりの内容でなくて当然。すべてエンディングノートで間に合わせようとするのではなく、不足分は、別項目で作成するぐらいのおおらかな気持ちで向き合うことが大切です。一筆入魂と気負うとどうしても筆が重くなります。何年も経てば思いも状況も変わってきます。気が変わったら気軽に書き直せるし、書き直すべきもの、ぐらいの気持ちで書いていただきたいと思います」

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