黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
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※写真はイメージです (Getty Images)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回はのみなしご姉妹について。

*  *  *

 幼少のころから高校を卒業するころまで、家にはずっと犬がいた。サルやウサギがいた時期もあったが、猫には縁がない。猫が嫌いというわけでもないが、たまたまそうだった。

 しかしながら、今回は猫特集ということだから、たった一月だけ猫を飼ったエピソードを書く──。

 十数年前の秋、よめはんと将棋を指していたら、ミャーミャーと、か細い鳴き声が床下から聞こえた。

「なんや、おい、猫やな」

「仔猫(こねこ)みたいやね」

「まさか、床下で産まれたんやないやろな」

「見てきてよ」

「あかん、あかん。ハニャコちゃんが行け」

 油断してはいけない。ちょっと眼を離したら、よめはんは駒を動かす。

 将棋をつづけたが、鳴き声がやまないから、ふたりして庭に出た。懐中電灯で床下を照らしてみたが、猫はいない。鳴き声は聞こえる。はて、面妖な……。

 家にもどって地下室に降りた。明かりを点(つ)けると、猫がよちよち歩いている。「はいはい、こっちおいで」手のひらにのせた。小さい。まだ眼があいたばかりだろう。三毛の仔猫はわたしを見あげてミャーと鳴いた。

 親猫がいるかと部屋を探したら、スピーカーの後ろにもう一匹いた。白の仔猫だ。さっきから二匹で鳴き交わしていたらしい。地下室と床下のあいだに通風口があり、そこから入ってきたようだ。

「な、おかあちゃんはどうしたんや」

 知らない、と耳と尻尾が三毛の白猫は鳴く。二匹は眼がくりっとした愛らしい姉妹だった。

 牛乳を温めて、口もとにスポイトを近づけると、夢中で飲んだ。段ボール箱にバスタオルを敷き、使い捨てカイロを入れると、姉妹は寄り添って寝た。母親が探しているだろうと、箱を地下室においた。

 次の日、ようすを見に行くと、親が来た形跡はなかった。かわいそうに、姉妹はみなしごだった。

 動物病院に姉妹を連れていった。診察を受けて目薬をもらい、仔猫用のミルクと哺乳瓶を購入した。しばらくは猫のお父さんだが、うちにはオカメインコのマキがいるから飼うことはできない。

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