藤巻 通常の国は景気が悪い時は通貨安を求める。米国だけはドルが基軸通貨なので例外。その地位を保つためドルが強くなくてはいけない。基軸通貨だからこそ、ドル紙幣を刷るだけで世界中から何でも買えるというメリットがある。
「通貨戦争」という言葉があるように米国以外は、景気対策として通貨安が極めて有効。なのに、日本の政治家は、円高の方がいいと思っている人が多かった。
本来、景気が良ければ通貨は強くなる。日本は景気が悪いのに円が強くなったから困ったことになった。通信簿で実力が1なのに最上級の評価5がつくようなもので、ロクなことはない。
円高で日本の人件費は高くなり、産業が空洞化した。日本人は外国人に仕事を奪われた。
原 円高になれば、仕事は海外に奪われるかもしれないが、日本人の購買力は上がる。より多くのものを海外から買えるようになり、豊かになる。それに比べ、円安は相対的に日本人が貧しくなるように思える。
藤巻 為替は経済の「自動安定装置」で、経済力に応じて変動するべきだった。ジャパンアズNO1という本が出たくらいに日本経済が強かった1979年、当時の米国経済は落ちぶれていた。あの時は1ドルが約240円。その後日本は落ち込み米国が復活したのに、円が強くなり、ドルが弱くなった。そこが問題。為替の変動による自動安定装置が働かず、日本経済が上昇するわけがなかった。
国内経済力が下がるとよりよい投資先を求めて国内から海外にお金が向かい、通貨安になるのが通常のパターン。ところが日本は海外に投資せず、国内でお金がたまる仕組みになっていた。本来は円安になるべきなのに、構造問題で為替変動ができなかった。
原 たしかに日本は低成長で、米国の方が経済成長率が高いが、詳しく見ると違った風景も見える。米国が成長できてきたのは、インターネット産業などの興隆もあるが、ヒスパニックを中心に移民人口が増えてきたことが大きい。
それに同じ米国でも業種や地域によっては、ほとんど成長できていないところもある。例えば製造業では、ここ40年でみると、物価換算した実質賃金の伸びはほぼゼロだ。米国は全体として成長しているように見えるが、賃金が伸びず苦しい生活をしている人もたくさんいる。
「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域には、厳しい生活環境の白人労働者が多く、その不満がトランプ大統領が当選する原動力にもなった。
では、日本も米国と同じように、大量の移民を受け入れて人口を増やすことによって経済成長を目指すのか。私は違う意見だ。いつまでも高成長を追い求めるのではなく、成長はそこそこでも安定した社会を築くほうがいいのではないかと思う。
藤巻 私は米国社会は好きではないところもあるが、経済的に強いのは認めざるを得ない。米国の金持ちは、「どこに投資すればもうかるのか」といった話ばかりしている。日本人の金持ちは、「どうやれば相続税を節約できるのか」という後ろ向きの話ばかり。リスクを取って投資しようとしない。
日本が弱いのは終身雇用制度も関係している。賃金が上がりにくく、ブラック企業はなくならない。劣悪な環境なら社員が会社を見限って辞めるはずだが、終身雇用のもとで耐えている。雇用が流動化すれば、企業は待遇を改善せざるを得ない。
外資系金融機関で在日代表兼東京支店長を務めていた時に一番怖かったのは、従業員がある日突然、ごそっと他社に移ってしまうことだった。存立の危機になってしまう。だから待遇改善を図った。
政府の仕事は経団連に賃上げを要求することではなく、完全雇用の維持と転職市場の整備だ。日本は雇用の分野でも競争がなさ過ぎる。
原 競争はあってもいいが、セーフティーネットも必要だ。個人がいくら頑張っても、うまくいかないこともある。それこそ、このまま政府が財政ファイナンスを続け、いつかその反動で経済危機が来たときに個人ではどうしようもない。