外資系銀行で活躍し、「金融界のレジェンド」とも評された藤巻健史さん。週刊朝日で8年間連載したコラム「虎穴に入らずんばフジマキに聞け」がこのほど完結した。参院議員としても活躍し、日本の財政や競争を阻害する仕組みについて警鐘を鳴らしてきた。
今回は特別編として、「アベノミクス」の問題点を一貫して訴えてきた朝日新聞の原真人編集委員との対談を紹介する。
藤巻さんも原さんも、日本銀行が国債を大量に買って政府の借金を助けている現状は、事実上の「財政ファイナンス」に当たると指摘。本来やってはいけないこの政策を続ければ、経済危機は避けられないと批判する。危機が現実化する「Xデー」がやってくれば、私たちの大事なお金が“紙くず”になりかねない。どう備えるべきかについて語ってもらった。
◇ ◇
藤巻 日銀が国債をほぼ買い占める状況が続いている。政府が発行した国債を日銀が直接引き受ける「財政ファイナンス」が、事実上行われているのだ。これは財政の規律を緩め通貨の価値を危うくさせるため、世界中で禁止されているし、日本でも法律で禁止されていることだ。
私は参院議員の時に、財政ファイナンスの問題について、日銀の黒田東彦総裁に質問したがきちんと答えてくれなかった。国債市場を通じて買っているので直接引き受けではないとか、デフレ脱却が目的だから財政ファイナンスじゃないとか、言い逃れのような答弁を繰り返した。私は、「放火だろうと失火だろうと火事は火事だ」と何度も反論したが、議論が深まらないまま終わってしまった。
原 黒田総裁はいつもまともに答えようとしていませんね。記者会見でも、木で鼻をくくったような回答を繰り返している。私もこれまで7年間にわたって質問してきたが、「財政ファイナンスとしてやっていないから財政ファイナンスじゃない」といったトートロジー(同義反復)でかわそうとしている。
藤巻 国会で、「日銀は債務超過にならないのか」という質問をしたが、きちんと答えられない。金利の上昇で日銀の健全性がどう影響を受けるのか、シミュレーション結果を出すように求めてきたが、最終的に逃げられた。
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、スタッフペーパー(組織の正式文章ではないが所属職員の研究発表)という形でシミュレーション結果を公表している。私は金利が上昇すれば日銀は債務超過になると思っているが、日銀はいろんなケースが想定されるなどとして結果を出さない。
いろんなケースがあるのは分かるが、債務超過にならないケースがあるなら示して欲しかった。実は、私も日銀は結果を出せないと思っている。出したら市場がパニックになりかねないからだ。
原 本来は市場の信頼を得るためにも、日銀はシミュレーション結果を出すべきだ。財政ファイナンスや日銀の健全性の問題を深刻に受け止めている政治家は、数えるほどしかいない。安倍政権のメンバーを含め、政治家がこの問題を正確に理解しているのか疑わしい。その雰囲気が国会全体を覆い、国民にも伝播(でんぱ)して、なんとなく「このままで大丈夫」という感覚が蔓延している。
藤巻 数年前は、「このままでは危ない」との指摘もあった。いまや危ない水準を超えようとしているのに、悲壮感はなくなっている。