原 アベノミクスの異次元の金融緩和や財政ファイナンスは、私が予想していたより長持ちしている。株式市場や債券市場の投資家たちは「猫にまたたび」状態で、大量の日銀マネーと永久緩和という“麻薬”に酔いしれてしまっている。アベノミクス開始からすでに7年経ってしまったが、これからさらに10年、20年くらいもつかもしれない。そういう状況で警鐘を鳴らしても「オオカミ少年」とみなされてしまっている。なんだオオカミなんて来ないじゃないか、と。最近では、いくら財政赤字を積み上げても大丈夫だというMMT(現代貨幣理論)の支持者まで増えつつある。
藤巻 日本は計画経済になってしまった。政府は大きいし、結果平等だし、規制が多い社会主義的な国。国債市場では日銀が圧倒的な存在を占める。株式市場も来年には日銀が最大の株主になるかもしれない。世界で金融政策として株を買っている中央銀行はない。不動産投資信託(リート)を購入することで、不動産価格もコントロールしている。
金融マンだった2000年代まではこんなことはなかった。自由市場であるべきなのに中央銀行がコントロールするのは計画経済。旧ソ連と同じようにしばらくはうまくいっても、いつか無理が来て崩壊する。
原 中国人民銀行だって株までは買っていない。中国の経済学者のなかには「日銀はあまりにも“社会主義的”すぎる」と指摘する声さえあるという。反論できませんね。
藤巻 こんな計画経済の国はない。そこが一番の問題。世界でダントツのビリ成長で、30年前に比べ日本のGDPは1・4倍にしかなっていない。中国は57倍にもなっている。
スイスやドイツみたいに財政赤字に歯止めをかける「財政均衡法」があれば、こんなことにはならなかった。経済が伸びなければ税収は増えるわけがない。経済が2倍になれば税収も2倍になって、国民も豊かになる。
バブル経済の1990年と比べるとGDPはほとんど伸びていない。2018年度の一般会計の税収は約60兆円で過去最高になったというが、90年度とほとんど同じ。GDPが膨らまないので税収は増えない。経済の実りを消費増税で国がより多く取っていくので、国民には不満がたまる。
一方で、歳出は90年度は約69兆円なのにいまは100兆円。税収が同じなのに歳出を増やすので借金がたまる。
これを解決するには二つしかない。税収が伸びないなら我慢して歳出を抑える。それができないなら、歳出に見合った経済成長をする。日本は世界でもダントツのビリなので、工夫すればもっと成長できると思っている。政治家の役目はビリの理由を考えていかに成長させるかなのに、票につながりにくい長期の成長戦略には積極的でない。
原 20年前と比べても、政府の歳出の中の防衛費や公共事業費、地方交付税交付金などはほとんど増えていない。増えているのは社会保障費と国債費。高齢化が進めば社会保障費が増えるのはやむを得ない。この状況では、私は歳入増のためには増税するしかないと思う。成長させることも必要だろうが、それに頼みすぎた極端な例がアベノミクス。成長で歳入と歳出のつじつまを合わせようとしたが、結局実現できていない。
異次元の金融緩和や成長戦略を打ち出しても成長できないのなら、これが日本経済の定常状態だと思う方が自然だろう。それに欧州や米国の成長も日本の状況に近づいてきている。過去200年でみると、先進国の1人あたりGDPの実質成長率は、どこも2~3%ほどだそうだ。日本はバブル経済のころまで4%を超えるような高成長をしていた。バブル崩壊以降の成長率が低いのは、それまで成長を前倒しした分の帳尻合わせをしている可能性がある。