原 そう考えると、個人として身を守るのは、外貨資産を持つことぐらいしかないのか。メガバンクはドル資産をたくさん持っているから、国内がハイパーインフレになっても大丈夫かもしれない。すると結局、深刻な被害を受けるのは大多数の国民ということになってしまう。

藤巻 日銀が破綻しても、メガバンクは外貨資産があるので生き残る。個人も外貨に資産を分散させるべきだ。私は外貨資産は保険だと言っている。日本人は給料も預金も年金もすべて円なので、リスクが集中している。

 円高になれば外貨資産は目減りして損をすると心配する人も多いが、いざという時に備える“火災保険料”だと思えばいい。

原 興味深い冊子を紹介しましょう。戦前の1941年に、大政翼賛会が戦費調達のため150万部刷って全国に配った「戦費と国債」だ。ここに書かれていることは、いま「借金をしてでも財政を拡大せよ」と主張している人たちと似通っている。

 例えば財政破綻の懸念について、「国債は国家の借金ですが同時に国民がその貸し手なので、経済の基礎がゆらぐような心配は全然ありません」などと説明している。

 膨れあがる国債は大問題なのに、国民全体の危機意識は高まっていない。いったん財政ファイナンスを始めると、やめることができなくなる。政府の主張通りなら景気拡大は約7年続いているが、この間、日銀は一度も金融政策を引き締めることができなかった。

 これからは米中貿易戦争や国内景気の減速など悪くなる要因が多いのに、異次元の金融緩和の出口に向かえるわけがない。日銀は永久に国債を買い続けるしかなくなっている。米FRBや欧州中央銀行は、いったんは出口に向かおうとした。日銀は出ようという意思さえ示したことがない。

藤巻 多くの人たちは異次元の金融緩和といっても、基本的には以前と同じようなものだと思っている。実際は、「非伝統的金融政策」と言うように、かなり危険な禁じ手をやっている。

 日銀は金利のつかない国債をどんどん買っているので収益力が弱まっている。余力がないので、市場で金利が上昇すれば赤字決算になり、債務超過になる恐れもある。

原 日銀の信用が失われると、資金が一気に海外に流出するキャピタルフライトが起こりうる。そうなると国家そのものがつぶれかねない。一部の危機感がある人たちの間では、資産を海外に移す動きが出ている。

 そうは言っても、大多数の国民は、政府や日銀を信じて資産を円で持っている。私は国民を守るためにも、財政ファイナンスの危険性を地道に訴えて、政府や中央銀行の姿勢を変えさせるべきだと思っている。甘言を疑い、危機感を取り戻さないといけない。

藤巻 強調しておきたいのは、残念ながらXデーが現実になったとしても、日本経済は復活できるということ。日本の財政と日銀は破綻しても、日本そのものがおしまいになるわけではない。ハイパーインフレになり円安になれば、マーケットメカニズムを通じて、経済は回復する。自暴自棄にならず落ち着いて対応すれば、危機が来ても生き延びられる。政府や日銀の言うことを信じて現状から目を背けるのではなく、一人ひとりが自分で考え準備しておくことが大切だ。 (構成 本誌・多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事

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