書類をそろえて法務局に申請したのは2016年1月。65歳のときだった。「終活」を意識してから5年近い月日が経っていた。

 さらに審査に時間がかかった。

「ドキドキしたのは面接。警察で取り調べを受けるみたいな聞き取り調査があって、すごく緊張しました」

 17年3月30日、申請から約1年3カ月後だった。66歳で晴れて日本国籍を取得したのだ。日本名は加藤ロザンナ。

「日本人になったんだって実感できたのは、この間の選挙。私は17歳でイタリアを出たから、今まで投票所に行ったことがなかったんです。イタリアの大統領選があると、日本に投票用紙が送られてきてはいたけど、投票所に行ったことはない。投票所で『初めてなんです』って(笑)。ひらがなで投票してもいいのか尋ねたら大丈夫と言うので、ひらがなで投票しました。土砂降りの日だったけど、すごくすがすがしい気持ちでした。日本人としての働きを初めてしたっていう充実感です」

 思い返せば、デビュー間もないころは6カ月ごとにビザの更新をして仕事をしていた。イタリアまで帰る時間がないので、香港、台湾、返還前の沖縄の領事館で更新したという。

「ビザ待ちの間は働けない。それがつらかったんです」

 当時から働くのが大好き。今も毎日のように日本中を飛び回り、ステージに立つ。タレント、料理研究家としても活躍している。

「たぶん、働くのをやめたら私は死んじゃう。泳ぐのをやめたら死んじゃうマグロみたいだから、『私ってマグロなの』って娘に言ったら、『お母さん、別の意味に取られかねないから、その言い方はやめて』って(笑)。娘に言わせれば、私は娘の50倍は働いているって」

 16年からは、兄弟デュオ「狩人」の高道さんと「タカ&ロザンナ」として、「夢スター歌謡祭」など全国の会場を回るコンサートツアー中だ。

「辺見マリさんや石井明美ちゃん、あべ静江さんに、西口久美子さん……。昔の仲間と一緒にバスで各地を回るから、楽しくて。笑いすぎて声がかれちゃわないか心配になるくらい」

(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2019年12月6日号