北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はラグビーニュージーランド代表・オールブラックスの「ハカ」について。

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 つらい10月だった。自然災害に生活や人生を奪われた人々がどれだけいるだろう。そのうえ容赦ない増税に、生きる厳しさが増す。

 アダルトグッズショップを23年間経営しているが、この10月は青ざめるほど、売り上げが落ちた。

「こんなときはバイブなんて買う気になりませんよね」とスタッフが言う。確かに女性が性を楽しむグッズなど、平和であればこそ。未来が見えない時代に、誰がバイブなど買うだろう。

「最近何にお金を使った?」と20代スタッフ3人に聞くと、ニーサ(NISA)を検討していると全員が言って驚いた。既にニーサをやっている30代スタッフがレクチャーを始めた。何一つ会話に入れないながらもわかったのは、若者が本気で2千万円以上を貯める気であることだ。

 そんなとき、同業者から「これ以上続けても苦しいだけ」と会社を閉じる連絡があった。ロリコン商品を絶対に扱わない、数少ない仲間だった。アマゾンのある今、個人商店には未来がないとの決断だった。巨大モールに商店街が潰されるのは、ネットもリアルも同じだ。

 暗い話ばかりでいやだな……と鬱々(うつうつ)としながら、はたと気がついた。東日本大震災のときには、売り上げが落ちなかったことだ。

 原発が水素爆発した日、私は会社を閉じる決意をした。こんな時代にバイブなどないと思ったからだが、そうはならなかった。関西や九州からの注文が増えたのだ。今から思えば、あのときはまだ社会に少しの余裕と未来があったのかもしれない。当時の政府はこれまでの方針を変え、原発廃止の方向性を打ち出した。未来を新たにつくり立ち直るのだ、という意思を信じられた。ところがその後、野田政権から民主党が何をしたいかわからない政党になり、あっという間に安倍さんだ。原発は再稼働し、沖縄は捨てられ、苦しんでいる人が置き去りにされるなか、オリンピック一色の社会になりつつある。景気も悪いし、気分も暗い。

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