「介護動作の基本に従って介護すれば、介護する人の腰痛や労力の負担を抑えることができるうえ、介護される人の苦痛を和らげることにもなる」
在宅での介護は、食事や着替え、排せつ、入浴など、さまざまな場面で「移動」の動作が必要になる。特に椅子に腰掛けたり、車椅子に乗ったり、トイレの便座に座ったりといった動作を「移乗」という。移乗介護の基本動作は以下のような体の使い方を心がける。
体を小さく
球体に近づける
重量は同じでも、支える面積が小さいと力が分散されない。寝返りのサポートやベッド上で体の向きを変えるときなどの介助も、この原理を活用し、介護が必要な人の腕を胸の上で組み、足を立てると、体がコンパクトになり、少ない力で移動させることができる。
重心を近づけ、
重心を下げる
介護される人との距離が離れていると重心が不安定になり、うまく移乗できず、介助者の腕や腰に負荷がかかる。なるべく体を寄せ、重心を近づける。また、重心を下げ、足を左右に開き、前後にも開くと安定感が増す。移動させるときに腕だけで動かそうとすると腕や腰に負荷がかかるので、腕や足、背中など全身の筋肉を使うようにする。
持ち上げるのではなく、
水平移動させる
無理に持ち上げようとすると、腰を痛めてしまう。移動させるときは、より少ない力で動かすように、水平に移動させることを心がける。また、移乗介助を行う際は、足の向きや位置を工夫し、肩と腰が平行となる姿勢を意識する。
福祉用具を上手に活用すると、介護する側、介護される側の双方の負担がさらに和らぐ。どのような福祉用具を使うといいのかをあらかじめ確認しておくとよい。
ベッドから車椅子への移乗介助には、スライディングボードが便利だ。スライディングボードは介護保険の福祉用具貸与の対象で、木やプラスチックなどでできており、表面は滑りやすく裏面は滑り止めの加工が施されている。
移乗介助やベッドでの体勢を変えるときなどには、スライディングシートも効果的だ。生地の表面に滑りやすい加工を施したり、袋状に縫製したりすることで、少ない力でシートの上の人を動かせる。ベッドと体の間に敷くと、体を持ち上げずに、滑らせながらスムーズに移動させることができる。
こうした福祉用具は、介護保険でレンタルまたは購入することができる。家族の状況に合った福祉用具選びや上手な活用法は、ケアマネジャーに相談できる。
ベッドや車椅子のグリップなどが低すぎると前傾姿勢になり、腰痛の原因になる。高さを調節していないと、介護される側、介護する側の両方が安定感を失い、ストレスが高まる。植木リーダーは、こう指摘する。
「適切な高さに調節することや、ベッドから車椅子への移乗の際、車椅子のフットサポートを外しておくなど、ひと手間を惜しまないことが安全でスムーズな移動を可能にする」
また、住宅改修費の一部は、介護保険制度で補助を受けることが可能で、介護しやすい環境の整備を計画的に進めることが必要になる。(ライター・小島清利)
※週刊朝日 2019年7月26日号