林:へぇ~、そうなんですか。
角野:その脇に紀伊國屋の喫茶室があって、若き日の岡本太郎とか西脇順三郎(詩人・英文学者)とか、そういう人たちがよく来てました。
林:戦後のいちばん楽しいころに青春を駆け抜けたんですね。角野さんは自伝的な小説もお書きですけど、その当時の新宿文化も書いていただきたいですよ。話が変わりますが、角野さんは美智子上皇后とお近しいとか……?
角野:お話をする機会はあります。アンデルセン賞をとったときは、すぐにお電話をいただきました。「よかったわね」って。それから、『トンネルの森 1945』という戦争のことを書いた私の本があるんですけど、それをお送りしたときも、お電話をいただきました。同い年なんです。
林:そうなんですか。
角野:美智子さまが10月、私が1月だから学年も同じ。同じ戦中を過ごしてるので、同じ体験をなさってると思うんです。お送りしてすぐ「読みましたよ」とおっしゃってくださいました。でも、あくる日新聞を見たら、美智子さまが首が痛くて体調がお悪いという記事が出てたんです。そんな中、読んでくださったのを知って、申し訳ないような、でも本当にうれしく思いました。
林:美智子さまが児童図書の国際大会(98年ニューデリー大会)でおっしゃった「読書は私に根っこと翼を与えてくれました」というスピーチ、あれは感動的でしたね。
角野:ニューデリー大会はビデオレターでのスピーチでした。その次の次の大会はスイスで美智子さまは初めてお一人で海外旅行をされ、英語でスピーチをなさいました。そのとき、私も参加していました。児童文学がとてもお好きだと伺っています。
林:これからはお時間があるから、お書きになるかも……。
角野:だといいですね。おすすめしようかしら。お歌も素晴らしいですよね。
林:本当に素晴らしいですよね。今年の「歌会始の儀」に、私、陪聴者として参列させていただきましたけど、美智子さまの「今しばし生きなむと思ふ寂光に園の薔薇(さうび)のみな美しく」というお歌、涙が出てきそうになりました。なんてお寂しい歌なんだろうと思って。