角野:それと、「この道を選ばなかったら、もう片方の道はどこへ行っていただろう」というお歌があるんですよ(「かの時に我がとらざりし分去(わかさ)れの片への道はいづこ行きけむ」)。私なんかはわがままを通して生きてきたけれども、美智子さまは相当なお覚悟だったんだろうなと思うんです。その覚悟にはものすごい孤独が、でもそれは単純な孤独ではなく、凛とした孤独を感じます。小さい女の子が「尊敬する人は誰ですか?」って聞かれると、昔は「キュリー夫人」とかって答えたでしょ。私にとって、それは美智子さまなんです。
林:美智子さま、心を割って本のお話ができる角野さんみたいな方がいらっしゃるって、国民としてうれしいことですよね。
角野:でもね、私、すごく恥ずかしいことがあるの。『魔女の宅急便』が3冊か4冊出たときに、初めてお送りしたんです。そのとき「皇后陛下美智子様」と書いたんだけど、「陛下」を「階下」って書いちゃったの、全部の本に(笑)。
林:アハハハ、おかしい。
角野:ぜんぜん気がつかないでお送りしちゃったら、美智子さまからお電話があって、「あなた、『階下』って書いてあったわよ。私はいいの。だけど、あの本はゆくゆく図書館に入るから……」っておっしゃって(笑)。
(構成/本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2019年7月19日号より抜粋