北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は選択肢のない日本の中絶事情について。

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 緊急避妊薬のオンライン診療が、条件つきでようやく認められるようになったが、厚生労働省の検討会の様子は衝撃だった。委員12人の会で、女性はたった1人だ。さらに“若い女性には知識がない”からと、“気軽”に処方する弊害を語る有識者の声もあったという。

 なぜ、女の身体の問題に、オジサンたちが「女は信用できない」という態度で臨むのか。ちなみに緊急避妊薬は76カ国で医師の処方なく薬局でカウンター越しに数千円で買える。一方日本では、医師が処方し、目の前で飲ませ(転売を防ぐため)、価格も5千~1万円と高額だ。いったい何を何から守ろうとしている?

 避妊薬どころじゃない。世界では今、中絶も薬で行われている。日本の病院で多く行われている掻爬(そうは・金属で子宮の中身を掻き出す方法)は避けるべきであるとし、中絶薬か吸引での中絶方法を世界保健機関(WHO)は2012年に推奨している。7年も前だ。

 先日、婦人科に勤める看護師の友人から衝撃的な話を聞いた。進行流産の外国人の患者だった。子宮の中身が出てしまい、血が流れ続けている状況だ。日本の「普通」だと、全身麻酔して処置をするが、その女性は「薬をくれ」と言いはったという。ところが医師自身が経口中絶薬の知識が全くなく話が通じない。というより、そもそも日本にその選択肢はないのだった。結局彼女は、望まない方法で処置を行った。

 その病院が掻爬ではなく吸引式を採用していたのは不幸中の幸いだったかもしれない。とはいえ、吸引式にも2種類ある。金属での吸引か、柔らかいプラスチックでの吸引か。当然、柔らかいほうが女性の身体への負担は軽いけど、多くの現場は、何度も使い回せる金属での吸引を経済的な理由で行っているという。

 先日、中絶について女性たちで語り合った。世界基準の中絶技術の話を医療現場の専門家にしていただいた後、その場にいた20~50代の15人の女性たちが一人ひとり話しはじめた。ほとんどに中絶経験があり、多くが掻爬での中絶だった。というより、そもそも選択肢があることを私たちは誰も知らなかった。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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