身長195センチ、スキンヘッドの巨漢。キラー・カーンさんといえば、昭和の悪役レスラーとして真っ先に思い浮かぶ一人だろう。リングを降りた後は飲食店を経営していたが、コロナ禍のあおりなどで閉店に追いやられた。そんな彼が手話劇団のゲストとして、新たな舞台に上がろうとしている。
プロレス全盛期の1980年代、“蒙古の怪人”の異名で国内は言うに及ばず米国でも大活躍したヒールレスラー、キラー・カーンさん(75)。“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアントとの死闘は今も語種だ。
87年に引退し、89年から東京・新宿で飲食店の経営に乗り出した。プロレスファンらでにぎわっていたが、コロナ禍や交通トラブルに巻き込まれ、2021年5月に閉店。その後、体調も崩したこともあり、自殺も脳裏をよぎったという。
それから1年9カ月。カーンさんは手話劇団の舞台にゲスト出演する。その経緯を取材した。
東京・お茶の水にあるレンタルスペース。耳や目に障害がある人たちが主なメンバーの手話劇団「NPO法人 劇団はーとふるはんど」が稽古に励んでいた。2月18~19日に日本橋の三越劇場で健常者も交えて開催する舞台「恋におちて」の準備だ。
主演の小林綾子さんはNHKの連続テレビ小説「おしん」で一世風靡。数多くの大河ドラマに出演歴がある水澤心吾さんと、セリフあわせをしながら位置を決めていた。
「シルバー世代の恋愛と家族愛を描いた心温まるストーリーで、監修はTBSのドラマ『渡る世間は鬼ばかり』シリーズの石井ふく子さんです。第1回公演が02年でしたから、22回目になります」と話すのは、劇団を主宰する山辺ユリコさん。
「ピンクの電話」の清水よし子さん、俳優の一谷伸江さん、山本みどりさんらベテランが脇を固め、キラー・カーンさんは介護施設の料理長役で3シーンに登場。短いながらセリフもある。
「カーンさんは共通の友人に紹介してもらい、朴訥で温かい人柄に好感を持ったので出演を依頼しました。実は30年ほど前、演歌歌手だった私は、カーンさんのカラオケスナックでミニライブをしたことがあるんです。『ご縁を感じた』っていうのも起用した理由の一つですね」(山辺さん)。