SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「家賃」。
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わが半生をツラツラと振り返ってみて、ほとんど家賃を払うために生きてきたんじゃないかと思うことがある。
会社の寮に入っていた時は三食ついて月に二万円ぐらいの支払いで、それでも高いと思ったものだが、会社をやめて普通のアパートを借りるようになってからは、もちろん食事などつくはずもなく、にもかかわらず何倍もの家賃を取られることになった。
昔は、といっても大センセイが生まれた頃の話だが、東京間借人協会なんてものが存在して、借家の住人たちの地位向上を主張していたそうである。
初代の会長は中村武志という作家(サラリーマン目白三平シリーズの著者)で、後に土地・住宅問題を解決すべく、衆議院選挙にも打って出ている。
結果は落選だったが、中村会長の主たる訴えは「土地を投機の対象にしてはいけない」であり、礼金などという意味不明の請求にも異議を唱えていたという。
この礼金というヤツ、大センセイも前々からまったく道理がないものだと思っていた。世間一般の常識では、金を払う側は客である。しかし借家界では、なぜか金を受け取る側に客の方から“お礼の金”を支払うのである。こんなおかしな理屈があるだろうか?
ところが誰に話しても、
「だって、住むところがなければ生きていけないんだから、仕方ないだろう」
と言う。
大センセイに言わせれば、
そうした人間の生死にかかわることだからこそ、礼金なんてものを取ってはいけないのだ。食や住をネタにあぶく銭を稼ごうとしては、断じていけないんである。
きっと、中村会長も同じ考えでおられたと思う。
若かりし頃、翌月の家賃が足りなくなったことがあった。どう計算しても、原稿料が入るタイミングが家賃の支払いに間に合わない。