統合に向けた検討協議会後、取材に応じる名古屋大の松尾清一総長(右)と岐阜大の森脇久隆学長 (c)朝日新聞社
統合に向けた検討協議会後、取材に応じる名古屋大の松尾清一総長(右)と岐阜大の森脇久隆学長 (c)朝日新聞社
大学大再編シナリオ地図 (週刊朝日 2019年2月1日号より)
大学大再編シナリオ地図 (週刊朝日 2019年2月1日号より)
入学定員充足率 2017年→2040年 (週刊朝日 2019年2月1日号より)
入学定員充足率 2017年→2040年 (週刊朝日 2019年2月1日号より)

 18歳人口が減り続けるなか、大学の統合や連携、国立大学法人が複数の大学を運営するなど、国立大学が独立行政法人化した2000年代前半を彷彿させるような、大学再編に向けた動きが活発化している。大学関係者や専門家の話を織り交ぜながら、大学の近未来を占う。

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 昨年12月に名古屋大と岐阜大が法人統合に向けて基本合意した。そのほかにも、静岡大と浜松医科大、奈良教育大と奈良女子大など各地で統合の話が持ち上がっている。近著に『大学大崩壊』(朝日新書)がある教育ジャーナリストの木村誠さんは「成功事例が続けば、大再編の時代が一気にやってくる」とみる。

 背景にあるのは18歳人口の減少だ。1992年の205万人をピークに、2019年は117万人にまで減少。40年にはさらに88万人になり、ピーク時の半分以下になる予測だ。

 都道府県別の「入学定員充足率」では、40年には秋田、新潟の国立大の定員充足率は約70%にとどまり、東京や福岡などの大都市でも約90%と定員割れになる見通しだ。

 国立大の運営費交付金は、04年度からほぼ毎年減額されている。運営費交付金は国立大の収入の半分以上を占める経営資金だ。04年は約1兆2400億円だったが、18年は約1兆900億円に減少。苦しい状況にある。

 こうした中、国立大の統合に向けた動きが進み、制度改革が議論されている。例えば、一つの国立大学法人が、複数の国立大を運営できる「アンブレラ方式」だ。また、国立、公立、私立など、法人の壁を越えて参加する「大学等連携推進法人」(仮称)制度も検討され、より統合へのハードルが低くなりそうだ。

 こうした現状を踏まえて、旧帝大を中心にした大統合の構想が浮上する。

 名古屋大と岐阜大は両大を残した上で「東海国立大学機構」(仮称)を設立する予定だ。当面は名古屋大と岐阜大だけで統合を進めるが、2大学に限らないという。前出の木村さんは「この『東海』というのがポイントだ」と話す。

 東海地方と言えば、愛知、岐阜、三重、静岡の4県だ。名古屋大、岐阜大に加えて、三重大、静岡大などの国立大を統合することが視野に入っている表れだとみる。この構想を支えるのは中部経済連合会だ。基本合意を発表した記者会見の場に豊田鐵郎会長も出席していた。

「中部経済はトヨタ自動車を中心にモノづくりでは強いが、情報系の分野に弱く、将来的に地盤沈下するのではないかと危機感を持っている。統合によってイノベーションを起こせる大学をつくり、それを核にして、シリコンバレーのようなテクノポリスをこの地域につくろうという構想があるようです」(木村さん)

 九州でもアンブレラ方式を活用した統合の議論が出ている。九州大の久保千春総長はメディアに対し、具体的な話はないとしながらも、「アンブレラ方式などで他の大学と協力する可能性が出てくる」と発言しているのだ。

 九州では06年にも国立大の大統合プランが動いていた。その名も「大九州大学構想」。経団連の御手洗冨士夫会長(当時)が提唱していた「道州制」の議論とともに、九州にある国立大の統合を提案した。

「大九州大学構想は復活することもあり得る」というのは、当時、九大総長だった梶山千里・福岡女子大学長だ。九州の国立大の学長や知事らとともに、議論が重ねられ、九州各地の国立大を総合大学として残しながら、九州大を「大九州大福岡校」、長崎大を「大九州大長崎校」などと連合する案が検討されたという。

「総合大学の統合で、学内外の競争力を増すことができる。どこの学部を統合し、どこをなくすかまで議論した。学生のためにどうしたらいいかという観点から議論することで話が進んだ。当時は韓国・釜山の大学とも意見を交換した。海をまたいだ統合もあり得ます」(梶山学長)

(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2019年2月1日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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