SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは寝台特急の「サンライズ瀬戸」。
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サンライズ瀬戸は、とてもステキな寝台車である。
妻太郎さんとツアーで一度だけ乗ったことがあるが、夜の10時過ぎに横浜駅から乗り込んで、翌朝目を覚ますと、瀬戸大橋を渡っていた。あの“はるばる来た感”は、新幹線では絶対に味わえないものである。
そこで、ぜひ昭和君にも(タダで乗れる)就学前にサンライズ瀬戸体験をさせてあげたいね、ということになったのである。
妻太郎の調査によれば、JRの指定券は一カ月前の朝10時から一斉に予約開始とのことである。ネット予約は不可。みどりの窓口に並ぶしかないという。
某月某日9時40分、大センセイ、近所の駅のみどりの窓口へと向かった。
窓口はふたつ。向かって右に若い女性、左に先輩格の女性が座っている。先輩格の窓口が空いたので、サンライズ瀬戸の個室を取りたい旨を伝えた。すると一瞬、先輩の顔に緊張が走るのがわかった。そんなに困難なプロジェクトなのか?
「10時に販売開始となりますので、お並びになってお待ちください。ただし、他のチケットをお求めのお客様がお並びの際は、順番をお譲りください」
要するに、10時前に買えるチケットを買いに来た客がいたら、そちらを優先するということだ。
9時45分。背後に茶髪のオジサンが並んだ。先輩に言われた通り順番を譲ると、オジサンは後輩ちゃんの窓口に向かった。
「古河まで行きたいんだけどさ、湘南新宿ラインってグリーン車あるの?」
「ございます。座席指定はできませんが……」
「座席指定できないグリーンなんて、ないでしょ」
「いえ、お席が空いていればお座りになれると……」
「そんなのおかしいよね。だって、グリーンでしょ」
いいから、早くしてくれないかな。