北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は順天堂大医学部入試で発覚した得点操作の言い分「コミュ力」について。

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 順天堂大医学部も性差別していた。

「大学入学時点の年齢では、(女子は)相対的にコミュニケーション能力が高い傾向」にあるため、男女間の差異を「補正」した、とのこと。しかも米大学教授の論文を提出して「もっともらしく」説明したのだが、医者以外の人は英語を読めないと思っているのだろうか。すぐにネットでは「その論文にそんなこと書かれてない」と指摘されている。

 東京医大の差別問題が明るみに出た時、「え? 順天堂大学じゃないの? 昭和大学じゃないの?」と驚いた学生は少なくなかった。順天堂は、男女比等も一切公開しない秘密主義の大学として有名で、数年前までは親が面接に同席していたほど、あからさまに親の経済力が重視されていた大学でもあった。論文試験ではロンドンの地下鉄写真を見せられ「思うところを書け」というような内容で、「選考基準」が「わからない」という印象を持つ医学生は、私が聞いた限り一人や二人じゃない。しかしまさかのコミュ力高いから女子落とします……と言い訳するほど「世間知らず」とはね。

 医師の世間知らず、医師のコミュ力不足に苦い思いをしたことは、誰にでもあるだろう。

 私の友人(がん患者)は数年前のクリスマスに、入院患者のために病院が開催したパーティーで衝撃を受けたという。医師が歌を歌ってくれたというのだが、選ばれた曲は「千と千尋の神隠し」の「いつも何度でも」だった。友人は、まさかね、1番で歌い終えるよね……とハラハラしていたが、イヤな予感は的中した。「生きている不思議、死んでいく不思議~」……“がん最先端医療に取り組む先生たち”は高らかに歌いきった。「ラララララランラララ~ホホホホホッホホホ~」と、肩をゆらしながらコーラスする医師たちを前に、患者たちの目は遠く、表情は消えていたという。

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