アート小説で知られる原田マハさんと作家の林真理子さんが対談を行ないました。結婚した日が同じだというふたり。そんな縁も手伝ってか対談は大盛り上がりでした。
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林:へぇー、そんなご縁があったとは。ご主人も美術関係の方ですか。
原田:かつては音楽関係の仕事をしてたんですけど、今は私の仕事をサポートしたり、マネジメントを一部手伝ったりしてもらってます。なかなかいいパートナーで、文句も言わずにコツコツと仕事をサポートしてくれて。
林:まあ、作家が28年間もよくお別れにならずに、お互い(笑)。
原田:私たち非常に変わった夫婦で、ほとんど一緒にいないんです。私はけっこう飛びまわってるし、一緒にいても家の中では離ればなれだし。「長続きの秘訣は?」と聞かれると、「会わないこと」と言ってます(笑)。いい距離感でつき合ってきました。
林:うちの夫と正反対でいいなあ。ところで昔から、おしゃれで知的な女の子が好きな作家というのがいますが、今のそれは原田さんですね。
原田:ほんとですか?
林:原田さんの本を読むと、アートと小説とが一緒になって、いろんなことがわかります。
原田:私はアートがすごく好きなので、アートをテーマに書いているときは、無理にドラマをつくるのではなく、ストレスなくのびのびと書いている気がします。特に史実をベースに書いている小説は、調べものも多い分、新たな事実を知ったり、亡くなった画家と対話してる気持ちになったりしながら、楽しんでます。
林:私もゴッホは「耳」と「自殺」は知ってましたが、原田さんの本を読んで、こんな人だったんだと思いました。アートの解説風にしないで、あえて小説にしようと思ったのはどうしてなんですか。
原田:私みたいにフィクションを史実の上に構築するというのは非常に楽しい作業で、言ってしまえばウソばっかり書いてるんです。
林:でも、読む人はみんな本当だろうと思いますよ。
原田:それが危ういところでもあるんですが、どれだけ読者をだませるかという一種の駆け引きみたいなところもあると思ってるんです。研究者や美術家は、文献で裏付けがとれないことは書いちゃいけない。だけど、小説はフィクションですから、そこに物語をつくることこそ楽しい作業です。史実の骨格は残しておきながら、もしかしたらこうだったかもしれないと想像していただける範囲の中で、フィクションを書かせていただいています。