週刊朝日MOOK『医学部に入る2019』の編集作業中に起きたのが、東京医科大学の女性合格者数の抑制という重い現実でした。文部科学省は8月、全国の医学部医学科へ緊急調査を開始。女性医師が生涯活躍できるための道のりは、どこまで開けているのでしょうか。女性医師支援の取り組みに力を注ぐ、乳腺外科医の明石定子医師に聞きました。
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「女性医師が結婚や出産を機に離職することへの懸念があった」という理由で、女子受験者に対する得点操作が発覚した東京医科大学の入試問題。海外では女子医学生が半数以上を占める国も多く、時代に逆行したこのニュースに、多くの議論が巻き起こりました。
■日本医療界の旧態依然とした体質
外科医として乳がん治療の最前線に立ち続けながら、双子を育てる「マ
マドクター」でもある昭和大学病院乳腺外科准教授の明石定子医師は、日本の医療界の旧態依然とした体質も背景にあると指摘します。
「外科医でいえば、特に消化器外科などでは術後の急変による夜間の呼び出しも多いのが特徴です。日本では手術と術後管理は同じ医師が担当する場合が大半ですから、かつては妊娠や育児などを理由に急変に対応できなければ、戦力外として見なされてしまうという風潮が一部でありました」
例えば、アメリカでは手術と術後管理は別々の医師がシフト勤務で分担するシステムですが「日本は、他人に術後管理を任せることをよしとしない外科医もいます」と話します。
「シフト勤務を組むためにはマンパワーが必要ですが、人材不足でどこの病院も難しいのが現状です。当直明けの手術も医療安全上よくないことですが、そういっていられない状況が多いのです。つまり、日本の医療界の構造的な問題から見直さなければならない、ということです」
男の牙城と称された外科医の世界。これまでに2千例を超える乳がん手術に携わり、今も多いときは週に3~4件の執刀にあたります。「神の手」の異名を持つ明石医師は、その柔和な笑顔からは想像できない屈強な精神力で仕事をこなしてきました。