学校の担任なんて、出会ってから1年も満たないような相手です。その期間中に大勢いるクラスの生徒一人ひとりの将来性を見抜くなんて無理な話でしょう。それよりも、生まれてからずっと子どもをみている親が「できる」と言って後ろから応援してくれるほうが、心強い説得力があります。
以前、中学校の生徒と話す機会がありました。とても絵がうまいのに勉強の成績が低いために、自分を否定してばかりの子がいました。家でも、やはり「絵よりも学業を」と言われてしまうそうで、少し話しただけでも自己評価がかなり低いのが伝わってきました。確かに、勉強ができるというのは親としては安心できる指標ですし、安定性を考えれば子どものためを思っていると言えるのかもしれません。しかし、子どもの長所を褒めて伸ばしてあげることで、子どもの可能性や選択肢を広げてあげられるのは確かです。相乗効果で、勉強面のやる気も上がるかもしれません。否定してばかりでは、大人になってから全てにおいて自分に自信のもてない子になってしまうこともあります。私は、早い時期から勉強ばかり強制して、途中で挫折してしまった子を何人も見ています。「成績がよければいい」は、決して安心な道でもないように思えます。
■東大の生徒の人数に「私もいける」と思えた
地元の静岡県から出版社がある東京に行くために東大を受験したいと言ったときも、成績が悪いうえに時期が遅すぎて、学校側は「絶対落ちるからやめたほうがいい」と言って、何度も何度も別の大学を勧めてきました。でも親は私の可能性を信じて、高3のときに東大の文化祭に連れて行ってくれたのです。そのとき「東大生ってこんなにいるんだ」と感じました。地元では、身近に「東大」を感じていないからこそひどく高いハードルのように思えましたが、さすがマンモス校、あまりに大勢いたので、そこでも「私もいけるんじゃないか」と思えました。
小さな世界で、まだ何も行動していない時点から「あなたにはできない」と否定してしまえば、可能性を百パーセント閉ざしてしまいます。それよりも、具体的なものを見せて身近に感じさせることで「もしかしてできるんじゃないか」と自信をつけることのほうが、よほど人生の可能性が広がります。大学に入った後では、教授たちの多くが、何かしら本を書いていると知りました。「実際に経験者と話すこと」からも、出版を身近に思う気持ちは強くなりました。