他の例を挙げると、私の小学校の同級生と、私のいとこは、小学生の頃からJリーグのサッカー選手になりたいと言っており、実際に夢をかなえることができました。地元の静岡はサッカーが盛んで、実際に試合を見たり、選手と会えたりする機会も多くあります。もちろん、本人たちの相当な努力があってこその結果でしょうが、そうした環境の中にある「身近さ」、本物を見ることで得られる「具体性」が、幼い時期から「自分もやれる」と思う強い精神力を高めてくれたのではないでしょうか。そして、いとこの母親は、やはりいとこのことを「この子にはサッカーの才能がある」と肯定する人でした。同級生のことは「あの子は県で一番うまい」とも。否定されてばかりでは「無理かもしれない」という不安が先走って、頑張る努力も消えていってしまいます。否定せずに褒めて伸ばし、身近なモデルをみせて具体的な像を頭に描かせることで「自分もやればできるのではないか」と頑張れるのだと思います。

■「次のドアに手をのばし続ける」原動力

 漫画『宇宙兄弟』を読んでいると、宇宙飛行士になるのはとてつもなく難しいことなのに、どこか身近に思えてくる自分がいます。それは漫画の中で、全く知らなかったJAXAやNASAの試験内容や、宇宙飛行士の生活が描かれているからでしょう。具体性は本当に大事だと思います。

 その漫画の中で、ある宇宙飛行士がこんな言葉を残しています。「例えば宇宙へ行くみたいな大きな夢をもった時、目の前に現れたバカでかいドアに萎縮してむこう側にいくことを諦めちまう」「バカでかいドアなんてものはない、小さなドアがいっぱいあるだけだ」「小さなドアを開けるたび、君らの夢がひとつずつ叶っていくのがわかるはずだ」。やるべきことは「意地でも次のドアに手をのばし続けること」。本当にその言葉どおりで、その手をのばし続ける原動力こそが、幼いころから心の中で培ってきた「自分もできる」と肯定できる精神力なのだと思います。

 私の息子は、3歳のとき、将来は「ミツバチになりたい」と言っていました。さすがに虫なので「なれるといいね」とだけにとどめておきましたが、4歳になった彼は、「ロボットになりたい」と、ついに生物でもないものを挙げてきました。あえて「無理でしょ」と否定することはしませんが……親として応援できるときがくるのはまだまだ先のようです。

◯杉山奈津子(すぎやま・なつこ)1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など

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