私はこの事態に直面して、抗がん剤の効き目がなくなったと憂うより、セカンドラインには入って1年、がん発覚以来トタールで1年7カ月もの間、よくぞ効いてくれたとの感謝の気持ちのほうが大きかった。

 この腫瘍マーカーの上昇に合わせて、転移の有無を調べるためにPET(陽電子放射断層撮影)検査も試みることになった。その結果は、「原発巣の集積が亢進(こうしん)している」というもので、がんの動きが活発化したと判断せざるを得なかった。

 このような客観的なデータを参照し、耐性ができたと結論づけねばならなくなった。いよいよ抗がん剤治療も曲がり角にかかったようである。
 
■最強の抗がん剤に挑戦、その効果は……
  
 一般にすい臓がんの抗がん剤は4種類あるが、これまで試みたTS-1は1カ月半ほど服用した結果、私には効かないことが分かっていた。

 アブラキサン+ゲムシタビンの効き目で1年7カ月ほど切り抜けてきたが、それが駄目になるとすると、残された手段はフォルフィリノックスしかない。

 この薬は、最強の抗がん剤といわれるように副作用も強いので、その「適正使用」は65歳未満の患者に限られている。65歳以上は「慎重投与」とされており、私のように80歳を超えた高齢の患者には一般に使用されないようだ。

 しかし、これまでゲムシタビン+アブラキサンですい臓がんを抑えて抗がん剤治療をうまくやってきたので、主治医の伴先生はこれで諦めるのは早いと考えられたのであろう。元気に抗がん剤治療を続けてきた私をみて時々「スーパー老人」と評していたが、投与しても大丈夫と判断されたようだ。

■大がかりな投与を5回して感じた、複雑な思い

 フォルフィリノックスの投与は、4剤からの組み合わせで3日間も要するという大掛かりなものである。

 初日に3剤を投与し、その後4剤目は48時間を掛けてゆっくり注入する必要があるので、右肩の鎖骨の下にパワーポートという親指大の器具を埋め込むことになる。そこに針をさし注入ポンプと接続し、ポンプに蓄え抗がん剤を時間をかけ静脈へ投与するシステムである。

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