3日間投薬して、11日間休薬の計14日が1コースとされた。

 フォルフィリノックスには、吐き気、しびれ、食欲不振、だるさなどの副作用が多く予想されていた。その程度が他の抗がん剤よりひどいので、高齢者は控えるべきだとされていたものだ。たしかに投与して数日間吐き気が起きたが、総じて心配されたほどの副作用は私には生じなかった。 

 ところがこれだけ大掛かりな投薬であったにもかかわらず、フォルフィリノックスは私の場合、全く効かないことがわかった。5回投与したにもかかわらず、CA19-9はやむ気配を見せなかった。3月に218.0、4月に311.0、5月に601.1と、その急上昇は続いた。

 誰もが懸念する副作用をうまく乗り切ったのにと、複雑な思いがしたものだ。

■「やめる勇気」、抗がん剤治療の分岐点 

 以上のような事態を受け、新しい対応が必要となった。抗がん剤治療を続けていると、まさに抗がん剤が命の綱のように思えてくるものだ。

 抗がん剤が効かなくなると終わりという恐怖感もしばしば生じていた。ところが抗がん剤治療の過程には、ある分岐点があるとされている。この分岐点に差し掛かると、抗がん剤投与はかえって治療上の負担となる。

 つまり抗がん剤は、がん細胞のみならず免疫細胞などの正常な部分にまで攻撃をするから、当然治療上の負担が生じてくる。こうなるとすい臓がんに加え、この治療負担が腫瘍マーカーの上昇を促す働きをもつと判断される。
 
 となると抗がん剤をいったん休薬し、身体をある期間休めて体力を回復させてから、再度投与を始めるほうが賢明な策となる。

 つまり抗がん剤投与をしばらく休み、腫瘍マーカーがどう変化するのかを見ようというものである。

 私自身、若干躊躇もあったが、思い切ってやめる勇気を選択することにした。というのも、もう1年半以上抗がん剤治療を続け、強い薬を身体に注入され続けているので、しばらく抗がん剤から離れて、身体をできるだけ薬漬けの状況から解放させたいと考えたからにほかならない。

◯石弘光(いし・ひろみつ)
1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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