ワールドカップ(W杯)ロシア大会について7回にわたってお届けする、スポーツライター・金子達仁さんのサッカーコラム。最終回は「1カ月前とまるで違う日本代表の未来図」について。
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最後の記憶は、最新の記憶になる。
ひょっとすると世界でも有数の「親近感を持つ人が少ない国」だったロシアの印象は、今回のW杯で大きく変わったと言われている。2006年のドイツ・ワールドカップは、ヨーロッパに根強く残っていた「ドイツ嫌い」の感情を相当に払拭(ふっしょく)したとされているが、今回はそれ以上の効果があったかもしれなかった。
だが、最後の最後で国の最高権力者が台無しにした。
大会終了後のセレモニーで降り出した突然の豪雨。フランス、クロアチアの両大統領とFIFAの会長はずぶ濡れになってしまったが、一人だけ難を逃れたのがプーチン大統領だった。ボディーガードとおぼしき男性が、1本だけあった傘を彼の国家元首のために使用したからである。
客人よりもプーチン。女性よりもプーチン。ロシアが国をあげて取り組んだ一大「おもてなしプロジェクト」を、プロジェクトを命じたであろう人間が全否定してしまった。客人を優先しなかったボディーガードをたしなめるでもなく、平然と傘に守られ続けた大統領は、世界中の多くの人々にとって、今大会の最後の記憶になってしまった。
次の記憶が生まれるまで塗り替えられない最新の記憶として。
さて、6月の中旬から始まったこの連載も、今回で最終回となる。
2カ月前、担当編集者の方と打ち合わせをしたときは「あんまりガツガツせず、のんびりとした感じで書かせていただければ」と要望を出した記憶がある。
日本代表の前途は楽観できない。多くのメディアが西野監督以下を袋だたきにすることも考えられる。ただ、どんな結果に終わろうとも日本サッカーが滅びるわけではない。ならば今回はかつてのように感情的にはならず、できるだけ達観していよう……などと考えていたからなのだが、要は、戦う前から負けたときの準備をしていただけかもしれない。