だが、その対価として、チームは決勝トーナメントに進出したアウトサイダーが陥りがちな、燃え尽き症候群とは無縁でいられた。肉体的にはもちろん、精神的にも極めて新鮮で貪欲(どんよく)な状態で迎えられたことが、ベルギー戦の歴史的死闘につながった。
そして、極めて幸運なことに、この試合が、ベルギーのクルトワが本田のCKをキャッチしてからの13秒が、日本代表が世界に向けて発信した最後の記憶となった。ベルギーにとって究極の、日本にとっては悪夢のカウンターは、両国の国民のみならず、サッカーを愛する多くの人に長く記憶されていくことになるだろう。
それにしても、何と驚きと衝撃に満ちたワールドカップだったことか。
前回優勝国ドイツのグループリーグ敗退、それも最下位での敗退。一つの時代の終焉を思わせるメッシ、ネイマール、C・ロナウドの散り様。小国クロアチアの大躍進。エムバペという新たなスーパースターの誕生と、まだ完成形にはほど遠いフランスの世界制覇。世の中にサッカー通数あれど、この結果を完璧に予想できた人は皆無だったに違いない。
現地で観戦したメキシコ・ワールドカップで稲妻に打たれ、世界のサッカーを見たさにこの世界に飛び込んだわたしだったが、実はもう10年以上、サッカーにまつわる本は書いていない。もう見尽くした、書き尽くしたとの思いが年々強くなっていたからだった。
だが、今回のワールドカップを経て、久しぶりにサッカーについて書いてみたい、との欲求が頭をもたげてきている。
ベルギー対日本。最後の13秒に何があったのか。なぜクルトワはカウンターを発動し、ベルギーの選手たちはそこに反応したのか。なぜ日本選手は対応しきれなかったのか。
答えを探しにいこうと思う。
8年ぶりの週刊朝日での連載は、これで終わる。まさか、これほど清々しい気持ちで最終回を迎えられるとは、予想していなかった。
サッカーはわからない。未来もわからない。ただ、1カ月前とはまるで違った日本サッカーの未来図を思い描くようになったわたしが、いまはいる。
※週刊朝日 2018年8月3日号