だが、韓国はドイツを倒した。ドイツ人が受けた衝撃は、日露戦争に敗れたロシア人のそれに匹敵するのでは、とわたしは思う。
常識とされていたものが、覆ったのだ。
今回の韓国代表には、Jリーグでプレーしている選手が5人もいる。そんなチームが、前回王者を葬った。これで世界の頂点を今までより身近に感じない選手などいるはずがない。
もちろん、サッカーを取り巻くあらゆる環境にまで思いを巡らせれば、今の日本には世界の頂点にたどり着く資格がないことはすぐにわかる。ワールドカップのときしか注目されない現状や、いまだ専用競技場が少数派であり続けているスタジアム事情では、いずれ東南アジアの国々にも追い抜かれていく可能性がある。
それでも、アジアのチームとして史上初めて南米のチームを倒し、日本サッカー史上初めてW杯で2度のビハインドを追いつき、そしてドイツを倒す韓国を目撃したいまの日本代表は、月ほどに感じていた世界一との距離を、船で行くアメリカほどには近く感じるようになったはずである。
遠い。遥かに遠い。けれども、行けないことはない。
ベルギーは強い。素晴らしく強い。グループリーグを見る限り、大会最強と位置づける人もいるだろう。ルカク、アザール、デブルイネ。世界最高級の才能が揃ってもいる。
だが、韓国は日本など問題にならないほどに傑出したアジアのチームだったのか。ドイツは、ベルギーからすると歯牙にもかけないほどに評価の低いチームだったのだろうか。
そうだ、という人もいるだろう。だが、違う、という人はもっといるだろう。
36年前、史上最悪の試合を演じたオーストリアは、続く2次リーグでいいところなく敗退し、悪名だけを背負って大会を去った。だが、もう一方の当事者だった西ドイツは、準決勝でフランスと伝説的な死闘を演じ、負のイメージを拭い去った。
日本が進むのはオーストリアの道か。西ドイツの道か。
道は二つに一つである。
※週刊朝日 2018年7月13日号