「英才教育って、やっぱりちょっと滑稽だな。」(※写真はイメージ)
「英才教育って、やっぱりちょっと滑稽だな。」(※写真はイメージ)
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 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機の『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「英才教育」。

*  *  *

 英才教育って、どこかにちぐはぐさがあって、滑稽なものである。

 以前、ある編集者から聞いた話だが、ラジオでこんな投稿が紹介されていたそうである。

 幼い子供を連れた母親が電車に乗り込んできて、投稿者の隣に座った。母親は鞄の中から絵本を取り出すと、ページの上のイラストを指さし始めたという。

 どうやら絵本は英語の教材らしく、野菜や果物など身の回りのものの絵が描いてあり、名前を英語で答えさせる仕掛けらしい。

 母親がリンゴを指さすと、子供がネイティブっぽい発音で、

「アッポー」

 と答える。

 パイナップルを指さすと、

「パイナッポー」

 周囲の乗客が「ほう」と感心すると、母親は得意気な表情を浮かべた。

 次はトマト。

「トメイトー」

 今度はじゃがいもだ。

「ポテイトウ」

 そして、母親の指先がピンク色の実の下に緑色の葉っぱをあしらった桃をさしたとき、悲劇が起こった。

「バーミヤン」

 子供はウケを狙ったわけではないのだろうが、きっと母親も笑っちゃったんじゃないだろうか。

 実は大センセイも、これと似たような経験をしたことがある。

 とある公園のベンチで、ボーッとしていたときのこと。幼い子供数人を引き連れた小学一、二年生ぐらいの女の子が、目の前の砂場に現れた。

 砂遊びをしている最中、プロペラ機がのどかな音を響かせながら公園の上空を横切っていった。すると女の子が人差し指を立てて、

「エアプレーン」

 と言った。

 その発音があまりにも滑らかだったので、大センセイすっかり感心していると、それに気づいたのか、女の子は周囲にあるものの名前を次々と英語で言い始めた。

 日が傾きかけたころ、砂場の向こうからひとりの老人がこちらに向かって歩いてきた。言っちゃ悪いがあまり美しい老人ではない。いや、はっきり言ってしまえば小汚い爺さんだ。

 すると、女の子がこう叫んだのである。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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