「幸い夫の実家は事業を経営しています。夫婦で郷里に戻って関連ビジネスを立ち上げてもいいと思っています」
『定年が見えてきた女性たちへ』の著書を持つ野村浩子淑徳大学教授が分析する。
「これまでは組織を見渡しても定年退職を迎える女性は、ほとんど見当たりませんでした。しかし均等法世代の女性が50代半ばを迎えます。『点』でしか存在しなかった定年女子が、まとまった『数』となって社会に出現するわけです」
女性が定年を迎えるまで働けるかどうかの分岐点となるのが「役職定年」だ。役員にならなければ、55歳前後で部長や課長といった管理職を外れ、給与を含めた処遇が下がる。条件は男性も同じだが、女性の場合は気持ちの収め方が難しい。
野村教授によれば、日本企業で結婚や出産を経てワーク・ライフ・バランスのとれる働き方ができるようになったのは、2000年前後に入社した女性から。
均等法成立直後に総合職で入社した女性は、残業や出張、転勤など100%男性と同じ条件で働かなければ仕事を続けられなかった世代。結婚や子どもなど犠牲にしてきたものが多い。だからこそ、役職定年で処遇が下がると、「ここまで頑張ってきたのになぜ?」と落ち込んでしまうケースも少なくない。さらに、女性の場合、「職場での下り坂」に、「親の介護」や「更年期障害」が加わる。「自尊心を傷つけられるような職場での処遇の変化に対し、気持ちを整理するには時間がかかります。できれば40代後半から定年を見据える準備に入りましょう」(野村教授)
安倍政権が「人生100年時代構想」を打ち出したように、長寿社会への備えを意識しつつある。50代の女性がこう打ち明ける。
「わが家は長寿の家系で、90歳を超す女性が少なくない。私もきっと長生きするでしょう。自分の生活レベルは落としたくないが、この生活レベルで老後資金を計算したところ、なんと90歳で貯蓄が尽きることがわかったのです」