帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
長風呂はNG? 入浴がもたらす養生とは(※写真はイメージ)
西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒養生訓】(巻第五の49)
湯治(とうじ)してよき病症は、外症なり。
打身(うちみ)の症、落馬したる病、
高き所より落(おち)て痛(いた)める症、疥癬(かいせん)など皮膚の病、
金瘡(きんそう)、はれ物の久しく癒(いえ)がたき症、
およそ外症には神効(しんこう)あり。
養生訓のなかで益軒は入浴について、14項目にわたって語っています。その内容はとても具体的です。例えば、こんな具合です。
「入浴のたらいの寸法は曲尺(かねじゃく)で縦2尺9寸(87センチ)、横2尺(60センチ)。いずれも周りの板より内側の寸法である。深さは1尺3寸4分(40センチ)、周りの板の厚さは6分(1.8センチ)、底板はもっと厚いものがいい。ふたはあったほうがいい。すべて杉の板を用いる」(巻第五の44)
このように、たらいの大きさにまでこだわるのですから、益軒はかなり入浴好きだったのではないでしょうか。
この気持ちはよくわかります。実は、私は温泉の広い浴槽が苦手なのです。あの広さのなかでバランスをとって浸かっているというのが落ち着かないのです。だから温泉宿に泊まっても、大浴場には行かずに、自室にある小さな浴室で済ませてしまうことがあります。
でも正直いって、これは狭すぎていただけません。もう少し広くて、手足をゆったりと伸ばしても頭部は決して沈むことのない浴槽が好きなのです。
益軒の入浴のしかたは、「熱くない湯を少したらいに入れて、別の温かい湯を肩背(かたせ)から少しずつかけて、早くやめる」(巻第五の42)というものだったようです。こうすると、気がよくめぐり、食べ物の消化によいというのです。
温泉での湯治についても語っています。
「全国に温泉は多いが、病気によって、入浴してよくなるもの、悪くなるもの、よくも悪くもないものの3種類があるから、よく選んで入浴しなければいけない」(巻第五の49)と説いたうえで、
「湯治によってよくなるのは外症(外傷)である。打ち身、落馬や高所から落ちた打撲傷、あるいは疥癬(疥癬虫の寄生による伝染性皮膚病)などの皮膚病、金創(刀疵)、なかなか癒えにくい腫れ物といったものには、神効(霊験[れいげん])がある」(同)と語ります。
一方で、「内症(内臓の病)には温泉はよくない。ただし、うつ病、食欲不振、気の停滞、気血不順など冷えをともなう病態には、湯であたためることがいい」(同)というのです。
益軒の見解は現代の医学から見ても概ね正しいといえるでしょう。
いずれにしろ、入浴して気持ちがよければそれは心身にとってよいことで、気持ちが悪ければよくないのであると単純に考えてよいのです。
また、温泉の入り口に入浴を禁忌(きんき)とする病名が書かれていることがあります。そこに悪性腫瘍、つまりがんが記載されていることが多いのですが、これはさして根拠のないことで、これも気持ちがよい、悪いで取捨選択してかまいません。
※週刊朝日 2018年2月9日号