──最後に、パトリック・チャンは高橋さんも長い間競った相手ですが。
スケートという部分では、やはり彼が一番うまいです。パワースケーターに見える力強さを持っていながら、繊細な滑りができる。滑りに重厚感と軽やかさ、正確性があります。誰も彼に勝てない時代を過ごしてきたプライドもあると思います。オリンピックでもやっぱり勝ちたい、でも勝てないかもという複雑な気持ちがあると思う。最高の演技ができたら、続けてよかったというオリンピックになりますし、できなかったとしてもその体験はその後の人生にプラスになると思うんです。ぼくもソチ・オリンピックまでやってよかったと思っています。日本選手の中で一番下の成績でしたが(6位)、パフォーマンスとしてフリーは気持ちの良い演技ができました。パトリックもそういう滑りができたらと願っています。
──現役を引退なさって3年。今の男子をどうご覧になりますか?
現役を退いてから、男子は急激に変わりました。自分が戦っていたときとは別な次元に行ってしまった印象があります。新しい4回転ジャンプも増え、ジャッジの方たちも見たことのなかったものを目にして高揚したと思う。だんだんそれに慣れてきて、それ以外の部分にも目がいくようになったところは感じます。同時に、ルールがこのままでいいのだろうか、という流れもきていると思います。
──4回転が過剰という意見も耳にしますが。
個人的には競技としてジャンプを見るのは、それはそれで面白いと思っています。総合芸術としても、あそこまでジャンプで難しいことをやっていたらある程度ほかの部分が抜けるのは仕方ない。でも慣れてきたらまた変わってくるのだろうと、楽しみに思いながら見ています。
──現役当時と、解説者として見る目は変わりましたか?
現役時代は自分と比べるために見ていたので、良くないところにも目がいきがちでした。今はまず良いところを見つけようと意識している、という意味では変わってきました。また先シーズンと今シーズンの違いというところも見るようになりました。平昌は、競技者としてではなく「観る側」として初めて参加するオリンピック。みなさんと一緒に楽しみたいですね。
(構成・文/田村明子、本誌・工藤早春)
※週刊朝日 2018年2月9日号