一連の挨拶が終わり、司会の「しばしご歓談を」のアナウンスがあって場内の喧騒がひときわ高まったとき、ひとりの女性が人込みをかきわけながら大センセイに接近してきたのである。名前はTさんという。

「私ね、今日、あなたに会えたら、どうしても言いたかったことがあるの」

 小柄なTさんが、こちらを見上げて言った。

(そう、気がつかなくてごめんね。卒業してもう20年以上経つのに、僕のことが忘れられなかったんだね)

「私、あなたにずっといじめられてた。今日会ったら、それだけは言いたかった」

 一瞬、耳を疑った。横辞書鞄のヤマダ君が、いじめなどするはずがない。

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