西根さんによると、化粧品にはたとえばたるみやシワを改善するなどの「機能的な要素」があることが前提で、それに「五感でよみがえる記憶」が加われば、商品価値が高まるのだという。
確かに旅先で購入した日常使いの化粧品を、温泉の匂いや森の声、川のせせらぎ、空気のひんやり感といった思い出とともに使えたら、自然と呼吸も深くなって、美容成分の経皮吸収の浸透度も高まりそうだ。
その西根さんだが、作りたての商品がSNSなどで取り上げられるためには、「商品を着飾る」ことも必要と提言する。はたして、地方でそんな手間をかける気力や予算的な体力があるのだろうか。前出の江渕さんもこう話す。
「残念ながら、どんな人に売りたいかが明確になっていない商品もある」
さらに、地方側は食品などに比べて化粧品のセールスに慣れておらず、商品化は果たせても販路が定まらないケースもある、と江渕さんは指摘する。
その背景に、皮肉にも化粧品受託メーカーのレベルの向上がある。素材があれば“素人”でも簡単に化粧品を作れるようになった。その地域自慢の素材を使った商品を作り、人々に届ける工程には夢がある。ただ、営業や商品宣伝などにたけた担当者がいなければ、せっかくの商品が日の目を見ずに、倉庫で眠ったままになることも……。
決め手は「商品力」があるかどうかだ、と江渕さんは力説する。経済産業省は、15~16年に、地域でのヘルスケア分野のビジネスアイデアの事業化を支援する「ヘルスケア・アクセラレーター」を育成するプログラムを作成。62人が輩出したが、「育成した人が十分に活動できるほどの土壌が整っていない」(山本宣行・同省ヘルスケア産業課長補佐)ということで、育成した人材の活動支援や、地域ぐるみで健康への気付きから対応までを、切れ目なく提供できる体制づくりを目指す。
地方の隠れた美容コスメが、目利きのバイヤーたちの力も借り、開発秘話やその地域の“香り”をストーリーとして添え、全国区のブランドとして発信される日は近いだろう。
さて、今回の旅はおしまい。全国区になる前に、財布を持って「美容旅」に出てみようかな。(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日 2017年12月1日号