「あるとき『ママもう読まなくていいよ』と言われてしまいました。子どもは実際には経験をしていなくても、母親の声を通して人生の経験値を高めることができる。それに、絵本の読み聞かせが役に立ったのは言うまでもありません」

 母親だけではなく、父親も協力して1万冊を目指してほしい。育児参加の絶好の機会でもあるからだ。

「私は昆虫が苦手で、『あげは』は主人に読んでもらいました。同じ絵本でも、父親が読むと雰囲気が変わり、子どもたちは喜びましたね」

 佐藤家には、今でも語り草になっている読み聞かせのエピソードがある。一つ目は、蒸気機関車の話を、擬音語と擬態語だけで語る『ぽぽぽぽぽ』。

「『ぽぽぽぽぽ』という音が何度も出てきます。主人が読み聞かせている途中で、電話がかかってきたんです。主人は思わず電話口で『ぽぽぽぽぽ!』と口走ってしまったのです。仕事の相手でした。その後、何事もなかったかのように仕事の話に移り……。大笑いでした」

 二つ目は『おとうさんだいすき』。

「3人の息子たちは主人の横に寝っころがり、絵本を見ていました。主人は眠ってしまい、寝言で『小林さんはクマさんと……』と言いだしたのです。子どもたちはビックリ! 主人の友人の『小林さん』が主人公になって、クマさんと遊んだ話になっていたのです」

 佐藤さんは当時のことを思い出しながら、笑う。

「私にとって至福のときでした。子どもたちのキラキラした反応を楽しんでいました。1万冊の読み聞かせは無理をしたわけではありません。笑顔いっぱいの子育てをしていたら、たくさん読んだということです」

 絵本は子どもだけではなく、大人も心が豊かになる。読書の秋。乳幼児や小学校低学年のお子さんやお孫さんに、ぜひ読み聞かせをしてみてはいかがだろうか。(庄村敦子)

週刊朝日 2017年10月13日号

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