春風亭一之輔氏は初めての日光江戸村で何を思った?(※写真はイメージ)
春風亭一之輔氏は初めての日光江戸村で何を思った?(※写真はイメージ)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「江戸時代」。

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 今年の春に初めて日光江戸村へ行った。NHKの「超入門! 落語THE MOVIE」という番組のロケを見に来ませんか?と誘われたのだ。「超入門~」は口パクのドラマ部分に落語家の喋る落語をのせる、という画期的な番組。好評につき、特番で私の口演する「藪入り」という噺を、主人公の職人にピエール瀧さん、その妻を鈴木保奈美さん、息子を鈴木福くんが演じる。口パクで。日光江戸村で。これは立ち会わねば!ということで次男(小3)を伴い東武日光線に乗り込んだ。

次男「日光江戸村って、どんな村?」
私「まぁ、そこだけ『江戸時代』なんだな……」
次男「すごいな……じゃあ、その村に忍者はいる?」
私「いるかもしれないけど。簡単に見つかったらすでにそれは忍者じゃないだろう。隠れているだろな」
次男「じゃあ、探す! 探して、こてんぱんにやっつける」

「忍びの国」の織田軍のようなことを言っている次男。独りじゃどうにもならないだろうが、目標は大きいほうがいい。

 江戸村内のロケ地に到着。そこはお客さんは入れないのだが、広大な敷地に時代劇用の江戸の街並みが再現されている。

 次男は「わー! 江戸時代だー!」と歓喜。案内されて、出演者控室へ。キャストの皆さんに挨拶。会う人会う人、開口一番、「あなたの落語に口パク合わせるの、超むずかしい……」と表情を曇らせるので申し訳ない気持ちでいっぱいだ。本番中は私の落語がセット内に響き渡っている。なんだかな。

 次男はジュースを飲んでいた。「着物のおじさんにもらったよ」

 ピエール瀧さんだった。

 次男と何か話している。

次男「えーと、まず髑髏島の周りを越えられないくらいの高い壁を造って、閉じ込めてね」
瀧「……ほうほう……」
次男「上からポンプ車で水を放水して、水攻めにして……」
瀧「泳いじゃったら?」
次男「……忍者を使って、ミズグモの術で取り囲んで、煙幕で見えなくして、その隙に目を狙ってやっつける!」
瀧「忍者はどこにいる?」
次男「ここにいるでしょ!」

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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