熱戦が続いた夏の甲子園は、花咲徳栄が埼玉県勢を初優勝に導き、幕を閉じた。準優勝に終わった広陵(広島)から中村奨成というスターが誕生し、大会序盤で優勝候補のチームが敗れる波乱も続いた。週刊朝日臨時増刊「甲子園」でも執筆したスポーツライター・守田直樹が総括する。
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清宮幸太郎(早稲田実)不在の甲子園で、主役の座を射止めたのが、広陵の中村奨成だ。
決勝までの6試合で放った本塁打は6本。清原和博がもつ最多本塁打記録を32年ぶりに塗り替えた。
「調子がいいときはボールの縫い目がしっかり見える。それが今日(決勝)まで続きました」
10点差で迎えた花咲徳栄との決勝の最終打席でも、相手エースの146キロの直球を強振。痛烈なレフト線二塁打を放ち、19安打、6二塁打と、大会タイ記録もマーク。大歓声を受け、プロ志望を表明した。
「プロに行って球界を代表するキャッチャーになりたい。指名されれば、そこで一生懸命やりたいです」
中村の魅力は打撃よりもむしろ“鉄砲肩”にある。送球だけで観衆を魅了した高校生捕手はいない。捕前バントを素早く拾い上げ、矢のような二塁送球で2度もアウトに。一塁牽制(けんせい)ですら甲子園が沸いた。遠投は120メートル。投手のような美しいフォームと腕のしなりで、糸を引くようなボールを二塁に投げる。その送球の最速1.74秒はプロ顔負け。中井哲之監督も太鼓判を押す。
「小林誠司(巨人)やヤクルトの中村(悠平)選手ほどの送球の強さがある、と、冬場に先輩の白浜裕太(広島)が話してました」
身長181センチ、体重78キロ。筋骨隆々の選手がひときわ目立った今大会では、やや線が細いほうだろう。
「ガチガチに筋肉をつけないから、うちの選手は大学や社会人で伸びるんです」
高校ではウェートトレーニングを重視しないという中井監督の持論がある。
名門広陵で1年から正捕手に。肩を買われた、と中村は振り返る。