調査では、男女とも加齢によって量が下がってゆくことも明らかになった。さらに、副腎から出るテストステロンの原料「DHEA」も、年齢と共に低下していた。DHEAの維持も高齢女性の健康寿命に関わる重要な要素だと示唆された。閉経前の女性について調べると、女性ホルモンの分泌がピークを迎える「排卵期」で、テストステロンの量も上昇していた。
米国の研究によると、仕事を持ってバリバリ働く女性の唾液中の男性ホルモン値は、専業主婦よりも高かったという報告がある。また別の調査では、テストステロン値が低い男性ほど寿命が短かった。女性も同様に、テストステロン値が高いほど生存率が高いという研究成果もある。「元気ホルモン」ともいえるテストステロンを味方につければ、健康寿命が延ばせるかもしれない……。
その理論を実生活に生かすためには、日常生活でテストステロンの量を減らさないよう気を配る必要がある。というのも、テストステロンは強いストレスや、抗がん剤や抗うつ剤を使っていると減ってしまうからだ。まずは生活習慣を見直すことからはじめたい。
食事も大切だ。前出の熊本氏は生前繰り返し語っていた。
「年寄りは肉を食べちゃいけないといいますが、大間違い。テストステロンの原料になりますから食べてください。更年期後に元気を失った高齢者のテストステロンをいかに維持していくかは、日本の課題です。ただし治療のカギとなるテストステロン補充療法は、いまだ日本では普及していない。欧米では一般的な治療となっているのに……」
■増やせないなら外から補おう
熊本氏がいう療法とは、体内でテストステロンを十分に増やすことができないなら、外から補おうというものだ。
泌尿器科医の関口由紀医師は、テストステロン補充療法を実践しているひとりだ。
「性同一性障害で女性から男性に性別を変更した『FtM(Female to Male)』の方に、定期的にテストステロン補充を行っています。ある時、同年代のFtMの方と、閉経して女性ホルモンが減り、相対的に男性ホルモンの比率が高くなっている私の体内環境は同じではないかと思ったのです。その方は筋力がつき、バイタリティーにあふれ、自己肯定感も高く、とにかくイキイキしていた。そこで、私もテストステロン補充を開始しました」