ミュージック・クリップが公開されている「がんばれ兄ちゃん」には、彼らが憧れる細野晴臣がベースでゲスト参加。走るのも、食べるのも遅く、けんかに弱い兄を慕う弟が主人公。麗しい兄弟愛だが、弟からの目線なのが面白い。
親子げんかでもしたのか、家を出たものの、日暮れとともに心細くなり、晩ご飯のにおいにつられて、張っていた意地も薄れていく「おうちに帰りたい」もほのぼのとしている。
もっとも、本作には、にぎやかで明るい家族のだんらんを描いた曲は見当たらない。きれいごとだけではない家族のしがらみや人間模様を描いた作品が並ぶ。それがいかにもハンバート ハンバートらしい。
「雨の街」では、離婚して別居する母に月に1度会いに行く子どもの心情を描いた。土砂降りの雨に見舞われながら、買ってくれたランドセルを見せに行く。抑制を利かせながら、子どものはやる気持ちを見事に表現している。
家族の一歩手前のカップルを主人公にした曲も二つある。「あたたかな手」と「今夜君が帰ったら」。前者では、別れた男女と20年後のそれぞれの思いの違いを描写した。後者では、ふんぎりがつかないまま長く付き合ってきた男女それぞれの決心を描き出す。
毎日ご飯を作り続け“あなた”の帰りを待ち続ける「台所」。けなげに明るく振る舞いながらも、我に返って寂しくなる主人公の心情を、佐野が巧みに歌う。「ひかり」では、練炭自殺を図ったが死にきれず、身動きも会話もままならなくなった主人公が、まさかと思う人と再会する。この2人の関係は?と、想像をかきたてられる。
強い家族愛を歌った「ただいま」は、きっと彼らの新しい代表作となるだろう。主人公がきょうだいから託された供物を持参して帰郷し、亡き母との会話を交わす。そんな情景が浮かんでくるような内容だ。
歌い上げるというよりも淡々と歌うイメージが強かった佐野は、細やかな表現を含めヴォーカリストとしての魅力と説得力を増した。佐藤はクリエーターとしてさらに成長し、物事を俯瞰するような歌詞で新境地を開いている。妥協を潔しとしない意志や信念もうかがえる。
『家族行進曲』は、派手さとは無縁だが、ハンバート ハンバートの新たな一歩を示す意欲作。真摯で誠実な作品と言える。エールを送りたい。(音楽評論家・小倉エージ)
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