ハンバート ハンバートのニュー・アルバム『家族行進曲』。デビュー15周年記念として昨年6月に発表した『FOLK』に続く作品だが、オリジナル・アルバムとしては3年ぶりだ。
ハンバート ハンバートは佐藤良成と佐野遊穂の男女デュオ。「ん? 誰だって?」という人でも、ミサワホームのCM曲「いついつまでも」は耳にしたことがあるはず。あ、家作りのCMといっても◯◯ハウスのアレじゃありませんから、ホームです!
佐藤は作詞、作曲に加え、ヴォーカル、ギター、フィドル、バンジョー、ピアノ、ハーモニカなどを手がけるマルチ・プレイヤー。佐野はヴォーカル担当。清楚で可憐、まっすぐな歌声が素敵です。唯一手がける楽器はハーモニカ。ライヴではバンド編成にすることもあるが、ふだんは2人だけの活動が中心。昨年末には中国の上海、北京などでも公演した。
これまでに発表した『11のみじかい話』『道はつづく』『さすらい記』、米ナッシュヴィルでの録音による『むかしぼくはみじめだった』は、音楽ファンの間で高い評価を得てきた。
伝統的な米英のフォーク、カントリー、ブルーグラス、アイリッシュやケルト・ミュージックに傾倒してきた佐藤の音楽志向はマニアックだ。高校時代に知ったという1960年代後期から70年代の日本のフォークの知識も豊富。そうした音楽性を下敷きにしたオリジナル作品に魅せられたコアなファンは少なくない。芥川賞作家の又吉直樹氏が早くから評価し、絶賛してきたことはよく知られている。
ユーモラスで快活な作品もあるが、大半の作品のメロディーは叙情的。出会い、別れ、失恋の追憶、旅立ちなどをテーマにした作品の主人公は往々にして気弱で、うつむき加減。心の揺れがくみ取れる心情表現が巧みで、情景描写にも持ち味がある。
代表曲「おなじ話」では、2人が交わす会話に「おや?」と思わせるものがある。「おかえりなさい」は、帰ってくる人を迎えるのではなく、思う人のところへ“おかえりなさい”と送り出す歌だと知って、その切なさに胸をうたれる。話題になった「ぼくのお日さま」では、自分の気持ちを伝えられない吃音者の思いを描いた。誰もが体験するような普遍的な内容の歌詞も少なくない。
前作『FOLK』では、フォーク作品やセルフ・カバー作品に初めて2人の歌とギターで取り組んだ。今回の『家族行進曲』は多くのゲストを迎えたバンド・サウンドが主体だが、抑制が利いたシンプルな構成だ。アイルランドのバンジョー・グループのWe Banjo 3も2曲でゲスト参加している。