放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』新連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「同学年のスター」をテーマに送る。
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時として若き天才は全国の同じ年の若者たちを苦しめる。僕ら団塊ジュニア世代のスターの一人に貴乃花がいる。貴乃花は1972年生まれで僕と同学年。
中学くらいになると、同じ年のジャニーズのアイドルが現れ始めます。自分が好きな女の子が自分と同じ年の男性アイドルが格好いいとか教室で話し始める。その男性アイドルに小さな嫉妬心を抱いたりして、ついバカにしてしまう。これって男子にとってはあるあるです。ただ、ジャニーズはまだ良かった。
貴乃花が相撲界に入り、活躍し始めたとき。全国の1972年生まれの男子たちがちょっと焦っただろう。腕っ節一つでぐいぐい出世して、日本にブームを巻き起こしてしまうのだから。そういうとき、親や近所のおばちゃんが「貴乃花、すごいね」なんて言おうものなら、なんだか自分を否定されてるような気持ちになってしまう。そして勝手に焦る。
自分と同じ年の天才が出てくることは、結構迷惑だったりする。
水泳・岩崎恭子さんが14歳でオリンピックの金メダルを取ったとき。岩崎恭子フィーバーのように見えたが、おそらく同学年の人たちからしたらいい迷惑だったろう。しかも、同じ学年で水泳をやってる女子だったら、あれで心が折れた人も少なくないはずじゃないか。
そして、将棋界のスター、藤井聡太君である。去年の自分に「来年、日本は将棋ブームが来るよ」と教えてあげても「嘘つけ!!」と言うだろう。
29で連勝は止まったが、それでも日本は藤井フィーバーだ。これもおそらく、彼と同じ年の少年からしたら、嫉妬の対象であろう。お母さんが「藤井君はすごいね」なんて言ったら、「俺がダメって意味?」みたいな感じで気持ちがねじれていく。だけど、そういうねじれも大人になっていく上で大事な経験なのだが。
とある番組で、藤井君が小さな頃に将棋に興味を持ち始めたときに、親は他のことをやらせずに、興味を持った将棋だけをやらせたとか。これ、意外といろんなことをやらせがちだが、やはり興味を持ったものがあったら一本に絞るというのは大事なんだなと思う。が、普通は、その興味を持ったものが、例えば英語とかピアノだったら、それに絞るのもわかる。子供が将棋というあまりにも渋すぎる選択をして、他のことは詰め込まずにやらせてあげる、その勇気と振り切りがすごい。今は藤井君が出てきたからこそ将棋をやらせる人も多いかもだが、将棋がブームにもなってない中で、将棋をとことんやらせてあげる、その親のチョイスが一番すごいよなと。
子育ては自分がどう育てたいかじゃなく、子供がどうなりたいかを応援することなんだなとあらためて気づく。
最後に。全国の藤井君と同じ年の少年たちよ。焦るな! チャンスはいつか来る!
※週刊朝日 2017年7月21日号