こう語るのは、東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)研究員の谷口優さんだ。気になるその方法とは、“歩行”。実際、歩行と健康寿命の関係を示した研究結果が国内外で報告され、エビデンス(科学的根拠)が蓄積されてきたという。その一つが、今年1月に海外の科学雑誌に掲載されたばかりの超最新研究で、「歩行の状態が将来の認知症の発症リスクと関連する」という報告。谷口さんらが行ったものだ。

 この研究は、群馬県内で毎年実施されている住民の特定健診の受診者が対象。02~14年に受診した高齢者のうち、認知症でない1686人(のべ6509人)について最大歩行速度などの変化と認知症の発症リスクとの関連を調べた。

 研究期間中に認知症を発症した人は、対象者の11.6%にあたる196人。これを、「歩く速度が速く保たれる群」「中程度の歩行の速さの群」「歩行速度がどんどん遅くなる群」に分類したところ、速く保たれる群を「1」とすると、中程度の速さの群では1.53倍、どんどん遅くなる群では2.05倍認知症の発症リスクが高くなっていた。

 また、歩行速度で重要なのは「歩調(歩くテンポ)」より「歩幅」だと判明。今回の研究でも「歩幅がどんどん狭くなる群」のほうが「歩幅が広いままで保たれる群」より認知症の発症リスクが2.8倍高くなる傾向にあった。

「どんな人でも、年齢を重ねると筋肉がやせてきて、歩く速度が遅くなったり、歩幅が狭くなったりします。本研究でわかったのは、通常の加齢変化に比べ明らかに早く歩行機能が衰える人がいて、この変化がみられた数年後に認知症を発症している人が多いということです」(谷口さん)

 参考までに、同研究で歩く速度が「どんどん遅くなる」と分類された群の歩行速度は、男性の70歳が1.76メートル/秒(単位は以下同)、80歳が1.55、90歳が1.34。女性ではそれぞれ1.44、1.18、0.92だった。一方、「歩幅がどんどん狭くなる」と分類された群は、男性の70歳が73.6センチ(単位は以下同)、80歳が62.2、90歳が50.9、女性ではそれぞれ63.8、53.4、43.0だった。

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