「新しいタイプの抗ヒスタミン薬は体にはしっかり効く一方、脳には入りにくいという構造に薬を作り替えてある。そのため、副作用が起こりにくいのです」
一般的にはくしゃみやかゆみなど花粉症の症状をもたらす悪者のヒスタミンだが、実は脳内では認知機能や記憶力、学習能力を上げたり、頭をスッキリさせたり、食欲を抑えたりする重要な働きをしている。従来の抗ヒスタミン薬は体だけでなく脳にも作用し、そうしたヒスタミンの作用を抑えたため、眠気などの副作用が起こっていたが、新しい薬にはそういうことがないのだという。
谷内氏は、代表的な抗ヒスタミン薬について、脳内の受容体にどれくらい結合するか(占拠率)をPET‐CT(陽電子放射断層撮影)という特殊な装置を使って検証した。約80%結合している薬もあれば、10%以下の薬もある。
「昔から使われている抗ヒスタミン薬の占拠率は50%以上ですが、最近のものはおおむね30%以下。もちろん個人差などもありますが、われわれは占拠率20%以下の薬であればインペアード・パフォーマンスなどの副作用を起こさないと考えています」(同)
こうした副作用を起こしにくい薬を、「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼ぶ。同じ成分を配合した市販薬(スイッチOTC)には、フェキソフェナジンはアレグラFX(久光製薬)、エピナスチンはアレジオン(エスエス製薬)、エバスチンはエバステルAL(興和)などがあり、今年1月にはロラタジンのクラリチンEXが大正製薬から発売された。
さらに、従来の非鎮静性抗ヒスタミン薬より脳に作用しにくい薬が2016年11月に登場した。市販薬ではなく、医師から処方される医療用医薬品になるが、「ビラスチン(製品名・ビラノア)」という抗ヒスタミン薬だ。花粉症治療に詳しい日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科主任教授の大久保公裕医師は、
「有効成分のビラスチンは占拠率がほぼゼロ。むしろヒスタミンを活性化させるというデータまで出ています。抗ヒスタミン薬のなかではもっとも副作用が少なく、強い作用のある薬と言えるかもしれません」
もう一つ、同じ時期に販売を始めた医療用医薬品が「デスロラタジン(デザレックス)」だ。有効成分のデスロラタジンはロラタジンの代謝物活性物で、大久保医師によると、ロラタジンよりも速効性があるという。海外では10年以上前から使われていた薬だ。