花粉症の薬は「症状が出る前から飲む」のが原則。従来の薬は能率が上がらなかったり、凡ミスをしたり、「気づきにくい能力ダウン」という意外な副作用があったが、最近では、そうした副作用の出にくい処方薬や市販薬も登場した。
千葉県在住の会社員A氏(44)は1月中旬、会社近くにある耳鼻咽喉科で、花粉症の薬を処方してもらった。担当医に毎年飲んでいる薬の名前を挙げると、「それは“インペアード・パフォーマンス”という副作用が指摘されている薬」と言われ、違う薬をすすめられた。「花粉症歴は長いけれど、そんな副作用があるとは……。気づかないうちにその副作用の影響があったとしたら怖い」と戸惑う。
「インペアード・パフォーマンスとは、“気づきにくい能力ダウン”のことで、抗ヒスタミン薬の副作用の一つです。自動車などの運転の質が落ちたり、試験で凡ミスなどをしやすくなったりすることが、実験などで示されています」
と話すのは、ヒスタミン研究の第一人者、東北大学大学院医学系研究科教授の谷内一彦氏だ。この耳慣れない副作用については、オランダのマーストリヒト大学がこんな実験を試みている。被験者に抗ヒスタミン薬か偽薬のどちらかを服用してもらい、自動車を運転させ、まっすぐに走れるかどうか調べた。すると、偽薬服用群より抗ヒスタミン薬服用群のほうが、左右のふらつきが大きいことがわかった。
「インペアード・パフォーマンスは本人が気づかないというのがやっかいなところ。運転の場合、知らず知らずのうちに歩行者などに気づくタイミングやブレーキを踏むタイミングが遅れるため、交通事故を起こしやすいのです」(谷内氏)
このほかにも、イギリスで約1800人の受験生に対して行った調査では、眠くなる抗ヒスタミン薬を服用している受験生のグループは、服用していない受験生のグループに比べ、試験に落ちる割合が高かったという結果が出ている。
インペアード・パフォーマンスに限らず、従来の抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用をもたらす。だが、最近、医療機関で処方されたり、薬局やドラッグストアで市販されたりしている薬の中には、副作用がほとんどないものも登場していると、谷内氏は言う。