著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回、第67代横綱・武蔵丸として活躍した武蔵川光偉さんが選んだのは、三重ノ海の「元祖ちゃんこ」だ。
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日本へ来たのは18歳のとき。来日した当日に師匠に連れていってもらったのが、ここでした。和食自体、生まれて初めてでしたが、そのおいしさにびっくりしました。鶏ガラベースの出汁に、たっぷりの野菜からうまみが出ていて。シメのラーメン、雑炊も絶妙でね。きっと「たくさん食べて、がんばれよ!」とか言ってもらったんでしょうけど、まだ日本語がひとつもわからなくて(笑)。
部屋へ入ってからの食事は、兄弟子たちが作るちゃんこ。作る人によって味が違うので、お店の鍋とはまったく別ものです。納豆やわさびなど、なかなかなじめない物もあって、食事には苦労しました。ホームシックにもなったけれど、不思議と帰りたいとは思わなかった。無我夢中で相撲をとるうちに、横綱にまでなれました。
あの日に食べたちゃんこの味が忘れられず、親方となった今も、弟子や家族、友人ともよく行きます。ここは僕にとって、大事な思い出のスタート地点なんですよ。
「三重ノ海」東京都江東区門前仲町2-8-9 帝都深川ビル2F/営業時間:17:00~22:00L.O./定休日:日(東京場所開催中は営業)※4月に、江東区富岡1-13-8に移転
※週刊朝日 2017年2月3日号