社会保険労務士でブレインコンサルティングオフィス代表の北村庄吾さんは、現在65歳の年金の支給開始年齢は70歳まで上がると予想する。

「今回の動きは年金の支給開始年齢の引き上げや医療費の負担増の布石となる。政府はこれまでも上げようとしてきたが、世論の反発が強かった。年金の支給開始が70歳からでもやむを得ないという環境づくりを狙っている。高齢者の定義の変更は、その材料として使われる可能性が高い」

 いまは2.2人の現役世代で1人の高齢者を支えているが、30年には1.8人に1人、50年には1.3人に1人まで高齢化が進む。年金の保険料を上げるには限界もあり、制度を維持しようとすれば、受給者に痛みを強いるしかない。

 ほかの先進国でも米国やドイツは67歳、イギリスは68歳まで受給開始の年齢を引き上げる方針。日本でも平均寿命が延びるに従って、60歳から65歳まで引き上げられてきた。早ければ数年以内に、70歳まで引き上げの方針が決まると北村さんはみている。

 そうなると、もらえる年金は大幅に減る。平均的な賃金で40年間厚生年金に加入した会社員と専業主婦の夫婦を想定した「標準モデル世帯」では、合計の月額支給額は22万1279円(17年度見込み)。これをもとに単純計算すると、支給開始が70歳まで引き上げられると1327万円、75歳になると2655万円がもらえなくなる。

 年金がないなら働くしかないが、現役時代と同じ待遇を期待できる人は少ない。60歳で定年を迎えても希望すれば65歳まで働ける制度がいまもあるが、定年を延長する企業は少数。給料を下げやすい再雇用などの仕組みを採用しているところがほとんどだ。

「特殊な能力がないと希望に合わない職場や待遇で働かないといけなくなる。みんな本音では年金をもらってゆっくりしたいが、生活のためにやむを得ず働くことになる」(北村さん)

 医療費の負担増も避けられない。現在、患者の自己負担は69歳まで3割、70歳から74歳まで2割、75歳以上は1割。これが75歳まで「現役世代」として3割になる可能性が高いという。70歳以上の年間の医療費は平均で約82万円なので、3割になれば自己負担額は16万4千円から24万6千円まで増える計算だ。

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