2戦2敗からの巻き返しで日本一の座を手に入れた日本ハム。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、その要因は栗山英樹監督の動きにあったと分析する。
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日本ハムが4勝2敗で広島を下して10年ぶり3度目の日本一を決めた。私も球場や、自宅のテレビなどで、ほぼ全試合を見たが、いずれも「1点」が重たい試合となった。失策などの細かいミスもあったが、見ていたファンの方々の気持ちがどれだけ入っていたかどうかが一番だと思う。「あの采配は駄目」だとか「こうやって使ったらよかったのに」と各人が意見を持って見てくれていたのなら、それは面白いシリーズだったといえるのではないか。
勝利した日本ハムの栗山監督は本当によく動いたよね。その要因はまず、第2戦まで敵地のマツダスタジアムで連敗したこと。攻め切る姿勢を前面に打ち出せる状況にあった。そしてこのシリーズ前に守護神のマーティンも離脱したこと。守護神不在の中でやりくりするには、積極的に主導権を握るしかない。守りに入っていい状況は一つもなかったと思うよ。
ただ、動く可能性も頭に入れた準備は周到だったと思う。私は2勝2敗となった時点で、第1戦に先発した大谷翔平を、順番通りの第6戦ではなく、第7戦先発に回すべきだと思っていた。その時点で変更するとなると、前倒しとなった投手の調整が難しいと感じる方もいるだろうが、あらかじめ、大谷と第2戦先発の増井に「第6戦先発の準備をしてくれ」と言っておく。2勝3敗なら大谷、3勝2敗なら増井にすればいい。実際に3勝2敗となって増井が先発したわけだが、おそらく、栗山監督は両方に第6戦先発の準備を伝えていたはずだ。
第3戦まで広島の機動力にやられっぱなしだったが、第4戦で大野が、投手のショートバウンドをよく捕球して二塁盗塁を刺した。この足を止めたことも広島の勢いを止める上で大きかったと思う。そして第5戦の先発マスクを第4戦までの大野ではなく、市川にした点も効果的だった。チームとして、マークすべき選手の抑え方はミーティングで徹底されているとはいえ、その抑えるまでの通り道(=配球)は捕手によって違う。第7戦までの戦いを考えた場合、どこかで目先を変える必要もある。2勝2敗というシリーズの行方を左右する第5戦で決断をした栗山監督の勇気はたたえられるべきだ。
パ・リーグはソフトバンクというライバルがいて、そこに勝つためにあらゆる手を日本ハムは講じた。打順もそうだし、大谷の変幻自在の二刀流起用もそう。勝つための「変化」に首脳陣も選手も慣れていた。一方、広島は独走V。ある程度固定した打順、メンバーで戦った。そんな違いも短期決戦で出たと言える。
ただ、今年の日本プロ野球を盛り上げたのは間違いなく両チームだ。球団の関係者には惜しみない拍手を送りたい。
※週刊朝日 2016年11月18日号
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