事故当時18歳以下の約38万人を対象に超音波エコー検査を行い、現在検査は3巡目。今までに174人が甲状腺がんや、その疑いがあると診断された。
小児甲状腺がんの発症率は年間100万人に1~2人ともいわれる。それを考えれば福島では明らかに多発。有識者で構成される県民健康調査の検討委員会が今年3月に出した中間取りまとめにも「がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている」と書かれた。
ただその一方で検討委員会は、甲状腺がんは多発しているものの放射線の影響は考えにくいとする。その理由が、先の「一斉検査で過剰診断となり、もともと手術しなくてもよいものを見つけてしまっている」という説明だ。
冒頭の国際会議に登壇した日本医科大大学院の杉谷巌教授は、「亡くなった人の10人に1人から甲状腺がんが見つかる。甲状腺がんで多い乳頭がんは10年生存率が99%のうえ、高リスクに変わるものでもない」と説明し、過剰診断が県民の不安につながっているとした。
こうしたことから福島ではいま、甲状腺の一斉検査の見直し議論が進んでいる。福島の甲状腺がんの問題を追い続けているジャーナリストの野原晄氏によると、発端は14年の夏ごろに遡るという。
「検討委員会のなかから、過剰診断があるのではないかとの話が出てきたのです。その年の11月に開かれた検討委員会甲状腺検査評価部会でもずっとその議論をしていたときがありました。県民の関心は放射線による健康被害なのに、突然そこから外れたテーマに違和感を持ったのを覚えています」
そのときの議論ではこんなこともあったという。
「甲状腺検査の責任者だった福島県立医大の鈴木眞一氏(甲状腺内分泌学講座主任教授)が強い調子で『必要のある患者だけに手術をしている』と、過剰な治療や手術はしていないことを説明したのです。鈴木氏はそれからしばらくして担当を外れました」
検査見直しの流れは今年に入ってからもさらに強まる。甲状腺検査を行う際に記入する「同意確認書」。4月から不同意の欄が設けられ、「同意しません」にチェックをした人には、県立医大は受診案内を追加で送らないようにした。8月に入ると地元紙は1面とオピニオン欄を使い、すぐにでも甲状腺検査の対象者縮小や検査方法の見直し議論を始めたいとする検討委員会の星北斗座長の考えを載せた。また、福島県の小児科医会は、検査対象を同意が得られた人だけにするなどして絞り込む必要があるとする要望書を県に提出した。