さらに県立医大から検査対象者に送られてくるお知らせ「甲状腺通信」の8月発行号には、同意確認書の説明とあわせて「甲状腺検査は必ず受診しなければならないのでしょうか?」と題して、甲状腺検査を受けなくても良いと受け取られかねないQ&Aが載った。また、チェルノブイリ原発事故後10年間と福島での5年間での年齢別甲状腺がん発症数という本来比較できない数字を示し、福島では「放射線による被曝の影響とは判断できない」ともした。
先の国際会議では、県立医大の緑川早苗准教授がこの「同意確認書」に関してこんな発言をしている。
「同意は20%、同意しないは5%。残り75%は返事がない。つまり75%は消極的に検査を希望しない可能性があるのではないか」
無回答者をすべて検査拒否に含めようとするのは強引に思えるが、裏を返せばそれだけ検査を縮小したい気持ちの表れと受け取れる。
こうした議論の背景にあるのは、一斉検査を行うことで県民に不安が生まれ、福島で甲状腺がんが多数見つかったという風評被害が残るとの考え方だ。
だが、そもそも甲状腺検査は、放射線の影響から子どもの健康を守るために長期間の追跡調査をするものではなかったのか。それに子どもの甲状腺がんは臨床データが足りないため、専門家でさえ手術をしなくてもよい潜在がんなのかどうかわからないのが実情だ。
道北勤医協・旭川北医院の松崎道幸院長は、検査見直しの動きにくぎを刺す。
「甲状腺がんの潜伏期間や男性の発症が通常より多いことなど複数の要因を考え合わせると、被曝と関係ないとは言えません。むしろ70%ぐらいはあると見ている。何より2巡目の検査で数十人からがんが見つかっているのに、検査を縮小するというのは無責任。県民に不安があるからこそ検査を続けるべきです」
松崎氏は、検査を縮小して追跡期間が短くなると、正反対の結果が出ることもあると言う。
「原爆被爆者の追跡調査を見ると、被爆から20年後までは1ミリシーベルト以下の被曝でがんなどにかかるリスクが下がる。しかし、その後に死亡率が上がっているのです。被爆者の健康被害がある程度まで解明されるのに50年かかったのに、わずか5年でわかるわけがありません」
「311甲状腺がん家族の会」で事務局長を務める武本泰氏も検査見直しには断固反対する。