小児甲状腺がんが多発する福島で、甲状腺検査の見直し議論が出ている。検査を行う福島県立医科大学は、一斉検査をすることで手術の必要がない潜在がんを発見していると対象者の縮小を訴える。一方、患者会などは原因がはっきりしない以上、検査を続けるべきと反発する。ジャーナリストの桐島瞬が取材した。
9月26、27日に福島市で開かれた第5回放射線と健康についての福島国際専門家会議(主催・日本財団)。福島県立医大などが共催するこの会議は、福島県が甲状腺検査の方向性を決める際の参考にする重要な位置付けとなる。
そこで国内外の報告者から次々に出たのは「一斉甲状腺がん検査ではスクリーニング効果が出やすい」「過剰診断は県民に不安を与える」といった現在の甲状腺検査を否定的にとらえる意見だった。スクリーニング効果とは、幅広く検査を行うことで手術をしなくても済む「潜在がん」を見つけてしまい、それが過剰ながん診断につながっているという意味だ。
あまりに放射線の影響を考慮しない報告が続いたためか、会議を聴きに来ていた参加者から疑問の声が相次いだ。その中の一人、岡山大教授の津田敏秀氏(疫学)は、パネリストたちに向けてこう質(ただ)した。
「聞いているとスクリーニング効果や過剰診断ばかり強調するが、福島はそうではないのが明白。会議の報告は、チェルノブイリでの甲状腺がんでさえ原発事故の影響ではないとしてしまうような、あまりに無謀な主張ではないのか」
津田氏は昨年、福島の甲状腺がん多発に関しての疫学論文を国際環境疫学会の医学専門誌に書いている。福島の甲状腺がんは、そのほとんどがスクリーニング効果や過剰診断ではなく、被曝の影響と主張する一人だ。
だが、津田氏の問いかけをパネリストたちは真っ向から否定。福島県立医大の教授は「あまりに外れた意見だ」と突き放した。
福島県で甲状腺検査が始まったのは2011年。チェルノブイリ原発事故では事故5年目あたりから周辺に住む子どもを中心に甲状腺がんが爆発的に増えた。事故直後に大気中に放出された放射性ヨウ素を甲状腺に取り込むと、甲状腺がんになるリスクが高まる。原発事故が起きた福島でも小児甲状腺がん患者が増えるかもしれないため、検査が始まった。