「百寿者のアルブミンの平均値は3.5しかありませんでした。でも、みなさんは何年も元気に過ごしています」(広瀬教授)

 性格の特徴もある。百寿者の男性は開放性が高い。女性は開放性に加え、外向性、誠実性が高い人が多いという。

 広瀬教授の共同研究者、権藤恭之・大阪大学准教授は、百寿者を対象に「セロトニントランスポーター」という遺伝子を調べた。

「セロトニントランスポーターには、不安感が強くストレスに弱いS型と、不安感が弱くストレスに強いL型があります。一般女性と比べ、百寿者の女性は2倍近くL型を持つ人が多いことがわかっています」(権藤准教授)

 人間には、年をとるごとに幸福感が高まるという傾向もあるという。

「老化と向き合い始める60~70代よりも、老化が進んだ80~90代以降のほうが、幸福感が高い。この傾向は『老年的超越』と呼ばれ、現在、研究が進められています」(同)

 多くの百寿者やその家族たちと交流を続ける広瀬教授も、百寿者の持つ幸福感に注目している。

「もてなし上手で、朗らかで、会話や質問を楽しむユーモアもある。私がこの調査にはまった理由のひとつです」(広瀬教授)

 さらなる成果を求め、広瀬教授らのグループは、110歳以上のスーパーセンテナリアンの遺伝子を集め、全ゲノムを解析中だ。

「現在の研究では、比較的ありふれた遺伝子の変異の組み合わせで、長寿になるのではないかといわれています」(同)

 100歳を超えて元気に生きられるのは、特殊な遺伝子を持つ人だけなのか。広瀬教授が続ける。

「遺伝の力はそれほど強くなく、遺伝的要因が2~3割、生活環境が7~8割という報告がある」

 不健康な生活だと、病気になるリスクは高まる。

「当然ながら、適切な栄養や運動は大切です」

 糖尿病や動脈硬化など生活習慣病の予防は、今も昔も変わらない、元気に年を重ねる秘訣だそうだ。

 病気を防ぐ物質が発見されれば、その病気の予防や治療への効果が期待できる。昨今、話題を集める腸内フローラからも、長寿を司る物質が発見される可能性がある。早稲田大学の服部正平教授は言う。

「腸内フローラは、疾患や異常の結果でなく、原因ではないかと考えています。長寿に導く腸内細菌が見つかれば、長寿の特効薬が誕生するかもしれません」

 誰もが元気に長生きできる日が来るのか。

「研究はまだ始まったばかり。気長に見守ってください」(広瀬教授)

週刊朝日  2016年4月1日号より抜粋

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